蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

原稿零枚日記

2014年08月12日 | 本の感想
原稿零枚日記(小川洋子 集英社文庫)

読んだきっかけは、とあるランキングで上位に位置していたから。
題名からして、エッセイなんだろうな、と思って読み始めたら、著者お得意の幻想?小説であった。しかも幻想度合いがかなり濃いめで、正直ついていくのに疲れました。

面白かったのは「夕刊に盗作のニュースを発見する」。
主人公(日記の執筆者で、売れない作家)は、自分の作品の一つが有名作家の著作をコピーしたものだと確信している。なぜなら、その作品は他のものと違って、あまりにもスラスラと書き上げてしまったからだ。しかし、そのオリジナルはずの作品はどこをさがしても見つからないし、誰も盗作であることを指摘しない・・・という話。

作家にとって、盗作というのは恐ろしいことらしい。
意図的に盗作したのならまだしも、参考資料は日頃読んでいる本から影響を受けて、意識せずに似たようなフレーズ、同じようなストーリーを綴ってしまうという、という無意識的?盗作が怖いのだそうだ。誰かがそれに気づけば、あるいは疑いを持てば、作家生命はもちろん、過去の(盗作でない)業績も危機に瀕してしまう。
この恐怖感の構造?みたいなものをうまく表現していたと思う。

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冬虫夏草

2014年08月12日 | 本の感想
冬虫夏草(梨木香歩 新潮社)

前作の「家守綺譚」はとても面白くて、2回読んだ。
前作は身近な樹木や動物が妖怪的?な行動をする様子を描いた、ごく短い短編を集めた作品だった。
妖怪的現象を当然のように受け止めて、淡々と日々を送る主人公:綿貫の暮らしぶりに憧れを感じた。

本作も似たような構成なのだが、どうも今一つ面白くなかった。

筋らしい筋がなくて、一種随筆的な前作に対して、本作は、綿貫が行方不明になった飼い犬ゴローを求めて鈴鹿山脈の中を探索するという、全体を通じる筋があるせいなのだろうか。

それとも日常生活の中に現れる妖怪変化とそれに驚きもしないで受け入れる登場人物というフレームに飽きてしまったせいだろうか。

前作に続いて装丁はとても良かった。
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卵をめぐる祖父の戦争

2014年08月11日 | 本の感想
卵をめぐる祖父の戦争(ディビッド・ベニオフ ハヤカワ文庫)

ドイツ軍に包囲されたレニングラードに住み主人公は、夜中に街をうろついているうち、ソ連軍に捕まってしまい、軍紀違反でつかまったコーチャとともに、ソ連軍高官の娘の結婚式に卵を調達してくるように命じられる。飢餓に苦しむ市内に卵があるはずもなく、二人は郊外の農場、あるいは、ドイツ軍から調達することを目論む。
郊外ではドイツの親衛隊部隊やパルチザンが暗躍し、二人はやがて腕利きのパルチザンの娘といっしょにドイツ軍にとらわれてしまう・・・という話。

飢えに苦しむレニングラード市内の悲惨な情景や、親衛隊のなぐさみものとして農家に閉じ込められた少女たち、といった目をそむけたくなるような場面ばかりが次々に展開されるが、深刻な感じにならないように、どんな窮地にあっても陽気なコーチャの軽口などを交えて、悲惨な話を楽しめるエンタテイメントに変換させることに成功している。かなりの長尺だが、読み始めると中断するのが難しいほどの面白さだった。

卵を手に入れる方法も印象的だったが、冒頭の、主人公がリアタイア後にアメリカで暮らす様子を描いた部分もとてもよかった。
あと、主人公達が、レニングラードの愛称として使う「ピーテル」(ペテルブルグの略?)という言葉の響きが素敵だった。
(読んだのは2012年10月頃)
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元気でいてよ、R2-D2。

2014年08月11日 | 本の感想
元気でいてよ、R2-D2。(北村薫 集英社)

後味の悪い、陰のある短編ばかりを集めた本。

戦慄を覚えるような強烈なものはなくて、ふだん隠されている人間の悪意(というか、底意地の悪さ)がチラッと見える、といった感じの筋が多かった。

その中で、「微塵隠れのあっこちゃん」は、取引先の傲慢な担当者の扱いに手こずっているOLの話。今どき、こんな露骨な下請けいじめみたいなことをする人はいないだろうな、とは思うものの、ラストで、今の状況と昔の思い出がリンクするあたりはとても良かった。
(読んだのは2012年12月頃)
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弱くても勝てます

2014年08月11日 | 本の感想
弱くても勝てます(高橋秀実 新潮社)

日本一の進学校:開成高校の野球部に取材したノンフィクション。
同部はグラウンドを使った練習ができるのが1週間で数時間のみ。このため練習効率が悪いと監督が思っている守備練習にはあまり時間をかけず、ひたすら打ち勝つ、しかも1イニングで大量点を取ってコールド勝ちを狙う、というユニークな方針を持っている。
と、いった感じの、「マネーボール」的な、従前のセオリーに逆らった頭を使う野球をする話なのかと思って読み始めた。

しかし、前述のようなこと以外は特別の戦術があるわけではなく、練習に特別な工夫があるわけでもない。本書の主眼は、日本一の進学校の生徒と(開成出身で東大出の)監督のちょっと変わった考え方や行動を描くことにあるように思えて、ちょっと残念だった。

開成高校生の考え方は、思ったより、突飛なものではなく、まあ、多少は理屈っぽいかな、という程度。
一方、監督の方はかなりの変わり者(失礼)という感じ。指導とか作戦とかも思い付きとかフィーリングに頼っているような気がした。というか、そんなに真剣にやっているわけでもないんだろうなあ・・・(またもや失礼)

これで、開成高校野球部が謎の快進撃をするような話だったら盛り上がったんだろうけど、そういうこともなくて、尻すぼみの終わり方だった。
(読んだのは2012年11月頃)
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