蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

垂直の記憶

2006年03月12日 | 本の感想
垂直の記憶 (山野井泰史 山と渓谷社)

昨年、沢木耕太郎さんが書いた「凍」を読んだ。世界屈指の現役クライマー:山野井泰史さんを描いた作品で、ギャチュンカンという山からの下山中に悪天候と雪崩のために遭難死寸前まで追い詰められる話が中心。登山に関するシーンの迫力はさすがノンフィクションの第一人者と思わせるものがあった。
しかしそれ以上に私がしびれたのは、山野井さんの登山以外のすべてを捨てた極めてストイックでシンプルな日常生活、それと、理想の妻というのはこういう人をいうのではないかと思えた山野井さんの妻:妙子さんの描写だった。

通勤途上にある本屋で「凍」の隣にその山野井さんの著作「垂直の記憶」が置かれてあったのに気づいて早速購入した。そして私としては珍しく、買った直後に読み始めた。
山野井さんのヒマラヤの諸山の登山記録。登山になじみがないので、これがどれくらいすごいことなのか正確には理解できなかった。しかし、垂直に近い壁に掘った浅い穴に小さなテントをはって極寒の夜を何回もやりすごすとか、酸素がうすく零下何十度という地で食事せず連続17時間も壁を登りつづけるとかのエピソードを読むと、人間の能力のそこしれなさに寒気を感じるほどだった。

文章のプロではない素朴ともいえる叙述からは、「凍」から感じられた以上に、登山に全人生をかけた山野井さんの思い、そして遠慮ないプライドの主張が濃厚に漂ってきた。

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