蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

お腹召しませ

2008年01月26日 | 本の感想
お腹召しませ(浅田次郎 中央公論)

「五郎治殿御始末」に続く時代短編集。前作に比べるとややコメディタッチの話が多いし、最後が尻切れトンボみたいな終わり方(各短編の最後に著者の独白が付いているのでそう思えるのかもしれないが)が多くて、やや著者のテンションが落ちてるかな、という感じだった。

その中で「安芸守様御難事」が面白かった。広島浅野家の傍流であった主人公(浅野長勲)が巡りあわせで四十二万石の藩主となることになった。
いわゆる帝王学を授けられていない主人公は、大藩の殿様という立場にとまどう(特に、食事の中に鼠のフンがはいっていたが、騒いだり残したりすれば調理係が切腹モノなので飲み下した、なんてエピソードがおもしろかった)。
ある日、主人公は「斜籠」というものの練習をさせられる。屋敷の中から駆け出して待ち受ける籠に飛び込む、というもので、何を目的にしているのか、誰に聞いても教えてくれないが、ラストでその意味が明かされる。
真相は実にバカバカしいものなのだが、主人公を含め皆真剣に「斜籠」の本番に臨む。
浅野長勲は幕末の実在の人物で、その回顧談を元にしているそうなので、もしかしたら「斜籠」も実話だったのかもしれない。明治を目の前にした時代にあってもこんなヘンテコなことを偉い殿様がやっていたのかと思うと面白い。

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