蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

風の影

2007年12月29日 | 本の感想
風の影(カルロス・ルイス・サフォン 集英社文庫)

舞台は内戦前夜から第二次大戦後のスペイン・バルセロナ。
古本屋の息子である主人公のダニエルはフリアン・カラックスという著者の「風の影」という古本を偶然手にいれ、その内容に魅了され、フリアンの著作をさがしているコレクターの不気味な噂にもひかれて、著者の足跡をたどるが、やがて凶悪な刑事フメロにつけねらわれるようになる。

内戦開始前と内戦中と戦後の場面が入れ替わりに登場する、けっこう入り組んだストーリーだが、うまく整理されているので混乱なく読めて、読み進むにつれてゴシックやホラーあるいはミステリ小説としての味わいがかわるがわる楽しめる。各種ランキングで高く評価されたのも理解できる。
ただ、私にとっては少々クドかった。半分くらいの分量にしてもらえるとちょうどいいか、という感じ。

主題はダニエルとフリアンそれぞれの(許されざる)恋(二つの恋とも同じ道筋をたどる)なのだが、どうも二人ともいい子すぎて共感しきれなかった。むしろ徹底的な悪役である刑事フメロに同情したくなった。

フリアンとフメロは上流階級が通う学校の同級生だった。
フメロの父はその学校の下働きをしていて皆からさげすまれ(今風にいうとイジメられ)ている。
フメロはフリアンの恋人であるペネロペを密かに慕っているが、ある日たまたまフリアンとペネロペがキスしているところを目撃する。そしてそれ以来彼の行動は大きく変わってしまう。この場面(下巻の59ページあたり)が(私には)とても(フメロの立場から)痛々しく感じられた。

翻訳者のあとがきによると、著者はバルセロナを舞台とした連作を構想しているとか。フメロの視点から本書の内容を描いて見るのもなかなか興味深いと思う。
また、バルセロナの風俗などが頻繁に紹介されるが、特に食べ物(食べ物の描写は少なくてただ名前が出てくるだけなのだが)がとてもおいしそうに感じられた。

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