蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

輪違屋糸里

2007年04月30日 | 本の感想
輪違屋糸里(浅田次郎 文春文庫)

新選組の芹沢鴨暗殺の顛末を、主に京都島原の天神(超高級娼婦)・糸里や新選組が居候する八木家・前川家の奥方の視点から描いた作品。
それだけだったら「ありがち」な小説かもしれないが、史実の上では存在すら疑われる糸里の周辺を、大胆な解釈と創造で著者独自の新選組観を披露することで、凡百な作家との差を明らかにしている。

浅田さんが新選組を描いた作品に「壬生義士伝」があるが、こちらでも主人公はほとんど一般に知られていない人で、大半が著者の創作であると思われる。

「輪違屋糸里」では、百姓から侍になった近藤や土方は、累代の武士である芹沢や永倉にジェラシーを感じているという設定になっている。著者の視線は、芹沢や永倉、斉藤といった「本物」の武士階級に対して暖かい(特に斉藤には「壬生」でも準主役扱いだったので、特に思いいれが感じられる)のに、近藤や土方には冷たい。「壬生」でも近藤や土方の描き方はそっけなかった。

私にとっての新選組は、「燃えよ剣」から始まったので、どうしても土方びいきになりがちで、「糸里」での土方の描き方には共感できないのだが、冷酷で人情を知らず、徹底的なリアリストとしての土方像も、なかなかカッコよかった。

また、芹沢の愛人であるお梅は、唯一の江戸っ子(近藤、土方は多摩の田舎者扱いされている)として、著者の思い入れが詰め込まれたキャラになっていて、ひときわ目立った。
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