蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

相剋の森

2007年04月06日 | 本の感想
相剋の森 (熊谷達也 集英社)

この本を読む少し前に「邂逅の森」を読んだ。
単行本の奥付を見ると、発刊されたのは「相剋の森」の方が少し早いのだが、ほぼ同じ時期に並行して執筆されたものと推定される。

「相剋の森」は現代のマタギと熊狩りに興味をもってマタギ達を取材するフリーライターの話。主人公のマタギとフリーライターは、「邂逅の森」の主要登場人物の子孫という設定になっている。
「邂逅の森」の重厚さはないが、自然保護の本質を問うというテーマの追求の深さという点では「相剋の森」の方が勝っているかもしれない。

フリーライターは、「山は半分殺してちょうどいい」という言葉の意味を探ることをテーマとしている。「半分殺す」対象は熊であったり、森林であったり、人間の欲望であったりする。
人間とその他の動物や植物がいっしょに暮らしている限り、人の手がつかない自然というのはありえない。お互いが影響を及ぼしあいながら生きていくしかないのだが、自然の全部を人が制圧しようとすれば、自然災害などのしっぺ返しをくらい、過剰に保護しようとすると、特定の種が異常に繁栄して生態系のバランスを崩したりする。
やりすぎない、ほどほどの境界をいかに見極めていくか、それが「半分殺す」ということの意味だろうか。

山間の集落に住む共同体が崩壊して、住む人がいなくなることが続いていくと、湿潤な日本は、一部の都市を除いて緑に覆いつくされることになるはず、というある登場人物のセリフが、意外ながら(そういわれてみると納得性があって)印象的だった。
コメント
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