蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ぼんくら

2006年08月31日 | 本の感想
ぼんくら(宮部みゆき 講談社文庫)

江戸のある長屋で殺人が起きる。それを契機に長屋の店子がどんどん他の長屋へ引っ越していく。この長屋の惣菜屋にいりびたるさえない同心は、この背景に大家である豪商が絡んでいるのではないかとの疑いを抱き、捜査を始める。やがてこの豪商の複雑な家庭環境、人間関係が明らかになり・・・という話。

宮部さん、上手いです。時間を忘れさせ、ページをめくる手を止めさせない。まさにエンタテイメントの達人。
夜尿が直らない(探偵役の)天才少年、驚異的な記憶力を持つ岡っ引きの手下、等々、どの話でもそうであるように、この作品でも脇役・敵役のキャラクタ設定が絶妙。そうしたキャラクタを動かす語り口のうまさも健在。物語の世界観の構築も万全です。
買って損はしない、という信頼感はとても厚いものがあります。

ただ、少々長すぎるのと、物語の長さに比べると「なぜ豪商は店子を減らしたかったのか」というミステリとしての主題に対する謎解きはかなり薄味。
この傾向は大ベストセラーでいずれも長い物語の「理由」や「模倣犯」でも見られたように思います。まあ、「火車」のようにほどよい長さですべてが揃った傑作ばかりを書けというのも酷ではありますが。
コメント
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