蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

クライマーズ・ハイ

2006年08月22日 | 本の感想
クライマーズ・ハイ (横山秀夫 文春文庫)

世間で高い評価がすでに固まっている作品を初めて読む場合、期待値が高いだけに(それなりに面白く質が高くても)失望することがある、と以前に書いたことがある。
「クライマーズ・ハイ」は、悪く言う人を見たことがないほどの作品で、文庫化されたので読んでみた。そして失望することは全くなく、評判に違わないすばらしさだった。

1985年の日航機墜落事故に直面した、墜落地群馬県の地元新聞の記者たちの話。作者は群馬県内の地方紙の記者としてこの事故を取材したことがあるそうだが、実体験そのものに基づいて書いたものではないとのこと。

ミステリ的な味付けや事故現場の描写はほとんどなく、主要な場面は一貫して新聞社の本社内で推移する。主人公の記者は無能ではないが、そうかといって切れ者というほどでもなく、社内での出世も円満な家庭生活もあきらめかけている。

こうした設定だけみると盛り上がらない話になりそうなのだが、それでもページをめくる手を止めさせないほどのエンタテイメント性があり、そして、事後現場を描かないが故にかえって事故の重大さを浮かび上がらせてしまうのは、作者の能力の高さゆえであろう。

最後の投書欄のエピソードがとってつけたような印象があったのと、若干安易さを感じさせるハッピーエンディングが欠点といえば欠点になるのだろうか。
コメント
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