僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

主人在宅ストレス症候群

2011年09月10日 | 読書

渡辺淳一の「孤舟」で、定年退職した夫が1日中家にいるようになり、
しかもあれこれと干渉してくるので、妻は息苦しくなってくる…

そんなシーンを読んでいて、僕は何年か前に読んだことのある、
「夫よ! あなたがいちばんストレスです」(村越克子著・河出書房)
という本を思い出した。

本書によると、全国のミセス134人を対象に行ったアンケート、
「あなたの生活の中でストレスになっているものは何ですか?」
という問いに対する答えの第1位は、「夫のこと」だった。
「夫がいること自体」や「夫の言動」が妻のストレス第1位だったのだ。

結婚前は優しかった夫は、実は優柔不断だった。
結婚前はたくましく頼りになった夫は、実は横暴だった。
結婚前は面倒見がよかった夫は、実はおせっかいだった。
結婚前は繊細でよく気がついた夫は、実は神経質で口うるさかった。

結婚前の美点は、結婚後は欠点に変わることもあるって、
知っておいたほうがいいかもしれません。

な~んてことが、いろいろ書かれている。
もちろん、本の後半部分ではこれらのストレス解消方法も示されている。

しかし、この本に書かれているのは「仕事を持っている」夫である。
その夫ですら妻のストレス源の第1位になるのだから、
定年退職して「毎日家にいる夫」となると、これはもう悲惨そのものだ。

妻にとって、夫が四六時中そばにいることは、大きなストレスであり、
それによって精神的、肉体的にバランスを崩して不安定になる…
そういう「主人在宅ストレス症候群」という疾患が実際にあるそうだ。

話は「孤舟」に戻るが、この小説の中で、妻が夫に対して、
「少しは家事でも手伝ってくださいよ」と言う場面があり、
言われた夫はムッとするが、それでも思い直して、
今までのように亭主面して威張らず、時々家事でも手伝うか…
と反省し、そういうことから新しい生活を始めようと思う。

そこで、かつて作った経験のあるちらし寿司を作ってやろうと考えた。

1人ではスーパーへ買い物にも行けないので、妻を同伴させる。
すると、スーパーの中で、買うものを巡ってまた妻と口論になる。
それでも材料を揃え、帰宅して、夫はちらし寿司作りを開始する。

しかし、「おい、寿司桶はどこだ?」から始まって、
とにかくモノがどこにあるかわからないので、いちいち妻に訊く。

そして気合を入れて料理を始めるのだけど、
米と水の分量、椎茸やかんぴょうの戻し方、錦糸玉子の作り方…
何をやるにしても、一人ではできない。
そのつど「おい、これはどうするのだ?」と妻に尋ねる。
妻の方が、夫にふりまわされて、息をつく暇もない。

悪戦苦闘の末、ちらし寿司ができたのは4時間後であった。
普段の食事の時間はとっくに過ぎ、妻は空腹でげんなりする。
「なんだ、せっかく作ってやったのに喜ばないのか」という夫。
「あなたとお料理を作ると何倍も疲れます。一人のほうが楽です」
そう言って妻は、台所の流しに乱暴に散らかった洗い物を眺めるのだ。

このシーン、僕は読みながら、笑うしかなかった。
夫の奮戦も妻の支えなしには出来ず、かえって妻に負担をかける。
しかし、俺がわざわざ作ってやったのに喜ばない、と妻を責める。

初めての料理に、ちらし寿司みたいな難しいものを作るからだよ。
僕は本の中の人物に向かって、そうつぶやいた。
せいぜい野菜炒めぐらいにしておけばよかったんだ。

この家には、27歳になる娘も同居していた。
しかし毎日のように目の前で夫婦喧嘩を見せつけられて耐えられず、
勤務先の会社に近いワンルームマンションへ引っ越してしまった。
そして次には妻も、「娘のところへ行きます」と家出してしまう。

主人公の家に残されたのは、自分と1匹の犬だけだった。

今日の定年後の男性の、ひとつの典型だろうか。

たしかに中高年の男性は、女性に比べ活力に欠けるところがある。

小説の中でも、
「女はいい。いくつになっても、なんだかんだと集まっては騒いでいる。
 男にない強さというか、バイタリティーがあるんだよね」
という会話が出てくる。

僕が通うスポーツクラブのプールにも、中高年の女性が多い。
男性がいても、黙々と泳いだり、水中歩行したりしているだけ。
それに比べて、女性たちはおしゃべりにも熱中し、大いに楽しんでいる。
見た目の「元気度」が、女性と男性ではまったく違うのだ。

僕はいつもそんな女性たちと混じって会話を楽しんでいるのだけれど、
彼女たちは僕にも「ずっと家にいたら、奥さんが嫌がるでしょ」と言う。
いや、まあ、僕は家事をするからそれほどでもないのでは…
と思うのだけれど、むろんそんなことを口に出せば、
「それはね、あなたが自分でそう思っているだけよ」と言われそうなので、
「う~ん、そんなものでしょうかねぇ…」と曖昧に返事する。

「ウチは主人が1日家いるので、うっとうしいからここへ通ってるのよ」
そういう女性が、圧倒的に多い。
「主人と2人だけでずっと一緒にいると窒息死してしまうわ」
と笑わせたりする。

なんだか、男の立場としては、ちょっと哀しくなってきますけど。

そういえば、かなり昔の話ですが、

亭主元気で留守がいい

という、テレビCMから生まれたフレーズが流行語になりましたね。
今やこれは単なる当時の「流行語」ではなく、
時代を超えた不滅のフレーズとなった感があります。

「孤舟」を読んでいると、さまざまな思いが飛び交い、胸が騒ぎます。

 

 

 

 

 

 

コメント (2)
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