昨年の秋ごろから、場所をかえて置かれていた一冊の本がある。
あるときは座敷の机の上、あるときはパソコンの脇、あるときは積み上げられた資料や本のいちばん上、というように放浪状態にあった。
表紙の顔が怖い。おどろおどろしいのは顔だけではない。下にある左手をかざすような右手、双方ともに死を呼び寄せるような気配に満ちている。
読みたくない。でも、読まねばならぬ、と義務感に苛まれて、数ヶ月が過ぎた。
しかたがない。読むか!
意を決して本を手にとった。
外は静かだった。
ぐずる心をあやしながら、それでもすぐにとはいかず、障子をあけてガラス越しに外の様子を確かめた。
「ぼた雪?」
雨がいつしか雪に変わって、町を白塗りにしてゆく。
「ここも白塗りだ。やっぱ、読まねば」
そのまま視線を手元に落として、表紙をひらく。
今度は、ウエディングドレスまがいの衣装で、をどる姿の全身写真が目に飛び込んでくる。
「あぁ~、アァ~、何んてこった」
写真の横に『怪男児 麿赤兒がゆく 憂き世 戯れて候ふ』 麿赤兒 朝日新聞出版 とある。
溜息まじりに次のページをめくる。
「はじめに」を読みはじめたのは、昨日の昼すぎのこと。
それからがいけない。
虜になった。
一気に読み終えた。
とにかく面白い。文章が生き生きとして、笑い転げて、涙がこぼれた。
「何処までがホントの話なの」
ホントでしょ! 細部には多少の(かなりの)脚色があっても、おおむねホントの話だろう。
ここまで面白く書かれると虚実皮膜状態で、狐につままれそう。
まッ、いいか。役者の筆だ。アナキーな町、新宿に育てられ、中央線文化にも関わった舞踏家の書だから。
何を隠そう、新宿生まれの新宿育ち、明治から三代目の私には、描かれている1970年代が肉感的に迫ってくるエッセイだった。
「こんな感じ、どこかで記憶がある。……デジャビュ感覚だわ」
これまでに読んだ本を、脳の本棚に辿るまでもなく、とっさに出た。
「宮本輝だッ」
悲鳴を上げる私。
「輝さん、ごめん。あなた様の本を超えて面白いのでありますョ」
その時、なぜか、帯を読み返した。
読み終わるまで目に入らなかった文字が、ボーンと広がった。
《はじめての痛快自伝エッセイ》
『痛快』の二文字が、文字列の中から大きく顔を出した。
なぜ、数ヶ月も表紙の顔が怖かったんだろう。
今度は、笑っている。
今度は、泣いている。
《天下布武》ならぬ《天下布舞》の面白さ、痛快さだ。
舞踏界の信長殿、3月29日に、朝日カルチャーでお会いするのが、楽しみになりました。
本の内容は、ここにあえて記すまい、と思ふ。
まだ、お読みでない方は、ぜひに一読をおすすめいたし候ふ。
あるときは座敷の机の上、あるときはパソコンの脇、あるときは積み上げられた資料や本のいちばん上、というように放浪状態にあった。
表紙の顔が怖い。おどろおどろしいのは顔だけではない。下にある左手をかざすような右手、双方ともに死を呼び寄せるような気配に満ちている。
読みたくない。でも、読まねばならぬ、と義務感に苛まれて、数ヶ月が過ぎた。
しかたがない。読むか!
意を決して本を手にとった。
外は静かだった。
ぐずる心をあやしながら、それでもすぐにとはいかず、障子をあけてガラス越しに外の様子を確かめた。
「ぼた雪?」
雨がいつしか雪に変わって、町を白塗りにしてゆく。
「ここも白塗りだ。やっぱ、読まねば」
そのまま視線を手元に落として、表紙をひらく。
今度は、ウエディングドレスまがいの衣装で、をどる姿の全身写真が目に飛び込んでくる。
「あぁ~、アァ~、何んてこった」
写真の横に『怪男児 麿赤兒がゆく 憂き世 戯れて候ふ』 麿赤兒 朝日新聞出版 とある。
溜息まじりに次のページをめくる。
「はじめに」を読みはじめたのは、昨日の昼すぎのこと。
それからがいけない。
虜になった。
一気に読み終えた。
とにかく面白い。文章が生き生きとして、笑い転げて、涙がこぼれた。
「何処までがホントの話なの」
ホントでしょ! 細部には多少の(かなりの)脚色があっても、おおむねホントの話だろう。
ここまで面白く書かれると虚実皮膜状態で、狐につままれそう。
まッ、いいか。役者の筆だ。アナキーな町、新宿に育てられ、中央線文化にも関わった舞踏家の書だから。
何を隠そう、新宿生まれの新宿育ち、明治から三代目の私には、描かれている1970年代が肉感的に迫ってくるエッセイだった。
「こんな感じ、どこかで記憶がある。……デジャビュ感覚だわ」
これまでに読んだ本を、脳の本棚に辿るまでもなく、とっさに出た。
「宮本輝だッ」
悲鳴を上げる私。
「輝さん、ごめん。あなた様の本を超えて面白いのでありますョ」
その時、なぜか、帯を読み返した。
読み終わるまで目に入らなかった文字が、ボーンと広がった。
《はじめての痛快自伝エッセイ》
『痛快』の二文字が、文字列の中から大きく顔を出した。
なぜ、数ヶ月も表紙の顔が怖かったんだろう。
今度は、笑っている。
今度は、泣いている。
《天下布武》ならぬ《天下布舞》の面白さ、痛快さだ。
舞踏界の信長殿、3月29日に、朝日カルチャーでお会いするのが、楽しみになりました。
本の内容は、ここにあえて記すまい、と思ふ。
まだ、お読みでない方は、ぜひに一読をおすすめいたし候ふ。
私も読みましたが「当時の新宿ってこんなんだったのかー」とか、いろいろ新発見多かったです!
ビジュアル的にはインパクトの強さから異質な感じや怖いイメージがあってとっつきにくいかもだけど、「えいっ!」って飛び込んじゃうと「それだけじゃない+アルファ」のミラクルイリュージョンを体験できちゃうのが魅力的なのかもしれないですね♪
本日2回目の壺中天「又」行ってきました!
新たな気付きを得たものの、その難易度の高さに「うーん・・・」考えさせられました。野口体操の受け方にも通じるところがあって・・・。また今度お伝えしたいと思います!
二回目の鑑賞、ご感想をおきかせいただきましょう。難易度の高さを感じられる感性こそ、演者の皆さんが求めていたことかもしれませんね。三回目も新しい発見があるといいですね。さやかさん。