羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

筋肉・筋膜……ある男性のつぶやき

2015年11月09日 04時53分07秒 | Weblog
 長年、野口体操講座に足しげく通っている男性がいる。がっちりした体型で、からだを固めて動く傾向は、最近でこそ少なくなったが、いつも目一杯、力を入れないとからだが納得しないかのように見受けられる。
 野口体操の頭脳的な理解ははじめから持っておられる。思想的に違和感は少ないのかもしれない。
 しかし、からだの動きは「えいやッ!」と一気に力を出し切るような勢いと硬い弾みでなりたたせてしまう。

 きっと、反動をつかって、からだを固めて、グイグイっと動くことをやめてしまうと、生きる基盤が失われて、あしたから仕事はもちろん人生も放棄せざるを得ないのかもしれない、といつしか思うようになった私は、彼だけは別格に置くことにした。嫌な力の入れ方ではないし、全体として彼なりにまとまった調和を保っているのだから……。

 先週の土曜日のことである。
 レッスンが終わって、着替える時間は、会話の時間でもある。
 更衣室に入るか入らないかのタイミングで、その男性のつぶやきを小耳に挟んだ。
「ある姿勢を保つのに、筋肉に力を入れて、ぐっと支えていたんですよね。でも筋膜の張力で姿勢を維持するとなると、随分動き方がかわりそうな~……」

《筋膜は第二の骨格》
 前々回の週に資料として日経ヘルスの記事をしっかり読んでくれた上で、7日の板書の意味を直感したイメージ変化、とつぶやきを聞き取った。『膜・筋膜ー人体の張力ネットワーク』医歯薬出版 竹井仁氏の序文xviii頁から
《 略 生体においてはテキストに示されているように、筋から腱を通じて骨へ力が直接に伝わることはほとんどない。筋はむしろ筋膜シート上に収縮力や緊張力を与えることに関与している。このシートが拮抗筋と共同筋に力を伝える。そのため一つの関節のみを硬くするのではなく、それ以上にいくつかの関節に関与する。“どの筋群”がある動きに関与しているかという筋骨格系の教科書で述べられているような単純な質問はもはや時代遅れである。この誤解がどれほど一般的であろうとも、筋群は機能的単位ではない。むしろたいていの筋は、当該筋と他の筋にある多くの運動単位により収縮する。これらの運動単位の張力は、それを覆っている筋膜シートや袋、繊維の複雑なネットワークに伝わり、最終的に身体運動となる》

 これにつづく文章を読むと、もっとはっきりするのだけれど……。
 それまで意識、無意識で力をギュギュッといれて動くあり方とは違う動きのイメージに気づいたつぶやきだったのではないか? 
 
「無意識に任せて、筋膜で姿勢が保たれる、とすると随分とかわりそうだ」
 聞こえてきたつぶやきが、私の耳の奥に鮮明な音声として残された11月7日、午後5時32分のことだった。
 頭のいい方は、まず、そこから理解が始まり、次第にからだの動きに落とし込まれて来るのかもしれないが。
「還暦すぎても、人生、まだまだ長いんですよねー」
 彼に声にならない声で話しかけている私だった。

 野口先生の”安らぎのうごき”だって、本当に変化したのは70歳過ぎから始めたイメージトレーニングで、亡くなる半年前に初めて“野口体操の安らぎの動き”になったのだから。
「あなただって、生きているうちに間に合うかもしれませんよ」
 からだでわかる。からだがわかる。時間がかかります。
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