送ってよわたしひとりで帰れない
妻は夫を恋人と思う 今岡善次郎
ありがとう そして時にはお父さん
失語の妻のそれは宝石 三谷彰
むなしいよ一人の生活もういやだ
病む友の電話相手をありがとう
春の日に彼の形見の黄の花に
癒され鼻歌穏やかな時 F・S
『百の家族の物語ー若年性認知症本人と共に歩んだ家族の手記』
若年性認知症家族会 彩星の会 編より

先日、母の最後にいちばん世話になった親戚に、形見分けを届けに出かけた。
その後、従兄からこの本が郵送された。
会の副会長をしている従兄は、“本文”『アルツハイマー病となった妻の4年間の介護と工夫の記録』と“あとがき”を書いている。
彼の妻が認知症と診断されるまでの混乱。そして診断されてから介護の日々。
今は施設に入所して、こうした本を編んだことなど、なんとなく知っていたことではあったが一気に事情がのみこめた。
そして従兄が「彩星の会」に入会して、同じ悩みを持つ家族に出会い助けられたことがよく理解できた。
読みながら思うことは、医者や専門家の話も大切ではあるけれど、日常の言葉で、やさしい言葉で、綴られた百の家族の物語は、悩み迷い、死にたくなるような窮地に追い込まれた時、希望の光を見出す一助になるに違いない。その大切さが伝わる一冊である。
「お祝いにかえて」の最後にこのような言葉が綴られていた。
《家族会に新しく入会されたご家族の話を伺っていると、診察を受けてから多くの時間が経っていること、介護家族が一人悩んでいることなど、さまざまですが、現時点では治療薬がなく、進行してしまうことが根本の原因であることは自明のことなのです。》宮永和夫(南魚沼市立ゆきぐに大和病院 精神科)
私は、この言葉を身につまされる思いで読んだ。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患した新井英夫さんとおつれあいの女性のことを思ったからである。
『お母様はこれからもずっと操さんの傍におられます。
一人ではありません。いつでも連絡をください』
送られた本に添えられた従兄の言葉に、からだの中にある小さな塊がほろりと解けるのを感じつつ、本のページをめくった昨晩のこと。


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