羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

Magic Trackpadとかつてのピアノ鍵盤の思い出

2011年01月13日 07時34分50秒 | Weblog
 七年ほど前まで弾いていたヤマハのグランドピアノの鍵盤は、牛乳の皮膜を重ねて作った特殊なものだった。
 皮膜?牛乳を沸騰させると表面に薄い膜ができるのはどなたもご存知か、と思う。それを重ねてつくられた板を、白い鍵盤に使う技術をヤマハが世界で初めて開発した。
 なぜか?もともとピアノの白鍵は象牙で、黒鍵は黒檀を使うのがヨーロッパのピアノだった。日本でも大量生産されるまでは、象牙と黒檀であったが、時代とともに象牙も黒檀も手に入りにくくなったこともあり、次第にプラスティックのような鍵盤が主流となっていった。

 しかし、その素材の変化で、象牙や黒檀の肌触り(指触り)、触ったときの暖かさは、失われてしまった。そこでヤマハが考えたのが、生物由来の牛乳の皮膜(タンパク質)だった。
 1970年代だったと思うが、我が家にその鍵盤で作られたピアノがやってきて、いい感じで弾くこと一年。白鍵が次第に黒鍵に近づいてくる。
「きっと手の汚れがついてしまってる、ドキッ!」
 ピアノを習いにくる子供たちにも学生たちにも、手洗いをきつく励行した。
 しかし、全く改善は見られない。ますます黒ずんでいく。
 さすがに疑念を抱いた調律師の方が、会社に問い合わせをしてくれた。
 すると我が家のピアノだけでなく、この指触りのよい暖かい牛乳皮膜鍵盤のピアノのすべてが黒くなっている、という答えが返ってきた。
 なぜか?
 会社の説明によると、黒檀でない木材を黒檀に見せる為に着色をしていて、その染料が色落ちし、白鍵の板の肉眼視できないほど細かい溝に入って染色してしまう、ということだった。
 原因究明がなされたわけで、すぐさま鍵盤をそっくり取り替えてくれることになった。

 象牙や黒檀といった生物や植物は、たとえ生命を失ってもそこには独特の暖かさと柔らかさが残るものだ、ということを再現しようとしたヤマハはすごいのだけれど、製品として完成させるにはクリアしなければならない難しい問題が数多くあったということだ。それは市場に出て、何年間か実際に使われてはじめて結果がでてくるものだった。

 さて、今回、パソコン環境変換に伴って、私は新しいマウスならぬMagic Trackpadを選んだ。この製品、昨年末に銀座のAppleストアで最初に触れた瞬間に気に入ってしまった。金属製の板状のものでこれまでのマウスの機能にプラスαが新しいのだ。
 板の上に右手をのせて親指から小指までを使う。クリックではなくむしろiPadのようにタップ式にちかい使い勝手だ。親指はクリックに相当する。小指側も同様にクリックできる。人差し指と中指で画面を上下に移動する。人差し指(ときに中指。ときに薬指も使える)は、ポインターを上下左右回転させて移動させる。親指と人差し指で画面の拡大縮小を行う。
 というわけで五本指をすべて駆使して、むしろピアノを弾く感覚で操作できる。
 ところが先ほどの話のように、新しい製品は時に不良品がでるものらしい。パソコン起動の際に、何度試してもうまく反応してくれない。三回目を試してもダメとわかって、テクニカルサポートの方が平謝り。交換するはめに落ち至った。
 新しいのがくるまで一週間待つのか。ちょっとがっかりしたのだが、なんと翌日には配送され、不良品交換が成立したのだ。
 そんなわけで無事、キーボードのわきにおさまって、今ではこちらを主に使っている。

 しかし、難点が一つあるのだ。
 連日の寒さで触れた瞬間に金属板は冷たい。ヤマハが開発したあの思いは正しかったよなぁ~と思い出した。
 しかし、この製品に関しては、生物由来の素材はきっと無理かもしれない。まぁ、我慢できないほどのの冷たさではないところに救いがある。なぜって、触れる時間はものすごく短い。その上、ちょっとなでるだけの感覚だ。
 野口先生の名言『豊かさとは、「ちょっと、すこし、わづか、かすか、ほのか、ささやか、こまやか、……」というようなことを「さやか」に感ずる能力から生まれる』
 まったく、その感覚なのである。
 こんな触れ方は初めての体験である。
 実に、ピアノとパソコンはどこかで同じ通奏低音がなっているよなぁ~、と思うことしきりの毎日である。
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