羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

ノクターン・遺作

2005年08月31日 08時53分43秒 | Weblog
 小雪さんが赤いドレスを着て「プラズマにいらっしゃい」というコマーシャルを覚えていらっしゃいますか。
 このCMに新しいバージョンができました。赤から黒へ。衣装を着替えて猫族の媚態を、小雪さんが披露しています。
 このテレビコマーシャルのバックで流れているのが、ショパンの「遺作」ノクターンです。この曲は、「戦場のピアニスト」でも演奏されていたものなのでご記憶の方も多いかと。トリルがすすり泣きを想わせる印象深いメロディーが心をとらえてはなしません。
 
 では、昨日の話の続きです。
 この「トリル」は、trという記号で音符の上につけます。ついている音符の長さ分だけ引き続けます。たとえば「ド」の音符の上にあれば、ドレドレドレドレ…、と演奏します。
 常々思っていることがあります。
 トリルは、歌やバイオリンではビブラートと同じものではないかと。
 モンゴルのホーミーの発声、日本の民謡の発声、歌謡曲の発声などは、かなり強烈なビブラートを使います。
 またバイオリンに代表される弦楽器は、ビブラートなしでは、音楽になりません。
 ピアノに目を転じれば、ピアノのおばあさんにあたる「クラビコード」という楽器があります。これはバロック時代の楽器です。この楽器の機構は、ピアノと同じ打楽器です。弦を下からたたくハンマーで音を出します。混同されやすいのが、同じバロック時代の「チェンバロ」です。しかし、チェンバロは、弦を引っかいて音を出す、撥弦楽器です。ですからピアノは、チェンバロよりもクラビコードに直接的な起源をもっていると楽器の歴史は伝えています。
 
 実は、このクラビコードの弦の張り具合は、ピアノとは比較にならないくらいゆるいものです。今でこそ金属弦を使っていますが、かつてはガット弦。羊の腸の弦を使用していました。そこで、同じキーを細かく上下させるとビブラート奏法が可能です。この楽器のもつ独特の味わいが生かされているというわけです。

 ビブラートというのは、人の感性になくてはならない「ゆれ(揺れ)」そのもの。喜びにも悲しみにも、人は泣きます。「心が千千に乱れる」などという心情を音楽で表すときは、やっぱりトレモロ(トリル)ってことでしょう。
 
 このトリル奏法は、同じ指で長く弾き続けるととってもくたびれるので、モーツアルトは、あの指使いに気付いたのでしょう。1の指をところどころに挿入するという発想は、スゴイ!
 野口体操で言う、ひとつの筋肉を長い時間緊張させない「おへそのまたたき」の原理をモーツアルトは知っていたのです。
 因みに、モーツアルトが演奏旅行に出かけるとき馬車に乗せて移動し、宿屋のテーブルに置いて練習をするという持ち運び可能なクラビコードを「ライゼ・クラビコード」と呼んでいます。この楽器は、ピアノが優勢になった18世紀になっても、ドイツの家庭では、愛好されていたと聞きます。その可憐な音ゆえに。

 ショパンがトリルを多用するのもわかるなぁ。
 幽そけき音に、すすり泣くのは、やっぱり小雪か。
 プラズマはなかなかに憎い。
 
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