羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

文庫版『帰郷』集英社

2019年07月20日 09時52分05秒 | Weblog

《戦争とは、かくも残酷で理不尽なものなのか。著者渾身の反戦小説集!》

朝日新聞朝刊に掲載された本の宣伝である。

早くも文庫版が出たようだ。

ひとりでも多くの方に読んでいただきたい。

《戻りたい、でも、戻れない・・・。故郷への想いを語る、帰還兵の痛切な運命》

戦争に駆り出された普通の人々の悲劇。

戦後70年以上が過ぎたいまだから、この作品を読む意味は深い。

単行本の装丁に使われている写真は、「米国国立公文書館」のもの。

故郷に戻った帰還兵と彼を迎える17、8歳くらいの女性と少女の姿が象徴する幸せ。

こうして帰郷できる兵隊の戦後も、苦難がまっているに違いない。それでも無事に帰還できた人はまだ幸せなのである。

名もなき人々の矜持、とはあまりに悲しい短編集であった。 

 

収められている「鉄の沈黙」のなかで、上官に敬礼をするシーンがある。

《見るだにたくましい人影が、よろめきながら近づいてきた。清田は立ち上がって軍靴の踵(かかと)を合わせ、膕(ひかがみ)を思いきり伸ばして敬礼をした。》

膕(ひかがみ)という表現をここで見つけた。

ずっと実感とともに探ってきた言葉だけに、このシーンが迫ってきたのだった。

清田一等兵も佐々木伍長も、ともにニューギニアの小さな瓢箪岬で戦死するのである。

 

第43回 大佛次郎賞受賞作 『帰郷』浅田次郎 集英社

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