《戦争とは、かくも残酷で理不尽なものなのか。著者渾身の反戦小説集!》
朝日新聞朝刊に掲載された本の宣伝である。
早くも文庫版が出たようだ。
ひとりでも多くの方に読んでいただきたい。
《戻りたい、でも、戻れない・・・。故郷への想いを語る、帰還兵の痛切な運命》
戦争に駆り出された普通の人々の悲劇。
戦後70年以上が過ぎたいまだから、この作品を読む意味は深い。
単行本の装丁に使われている写真は、「米国国立公文書館」のもの。
故郷に戻った帰還兵と彼を迎える17、8歳くらいの女性と少女の姿が象徴する幸せ。
こうして帰郷できる兵隊の戦後も、苦難がまっているに違いない。それでも無事に帰還できた人はまだ幸せなのである。
名もなき人々の矜持、とはあまりに悲しい短編集であった。
収められている「鉄の沈黙」のなかで、上官に敬礼をするシーンがある。
《見るだにたくましい人影が、よろめきながら近づいてきた。清田は立ち上がって軍靴の踵(かかと)を合わせ、膕(ひかがみ)を思いきり伸ばして敬礼をした。》
膕(ひかがみ)という表現をここで見つけた。
ずっと実感とともに探ってきた言葉だけに、このシーンが迫ってきたのだった。
清田一等兵も佐々木伍長も、ともにニューギニアの小さな瓢箪岬で戦死するのである。
第43回 大佛次郎賞受賞作 『帰郷』浅田次郎 集英社
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