羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

描きかけの町の風景

2018年09月15日 09時15分01秒 | Weblog

 先日、定期検診で眼科を訪ねた。
 昨年までは、杉並区の健康診断の中に、眼科検査が入っていた。
 今年から、糖尿病および糖尿病が疑われる人のみが、眼科検診を受けることに変更になった。
 社会保険・健康保険の実情の逼迫さからすれば、自費で受けることもいたしかたない。

 女医先生の検査を受けて、終わりかと思っていたら、有無を言わさず「眼底検査」をすることになった。
 あっという間に目薬をさされた。
「お近くなので、30分したら戻ってきてきください。足元に気をつけて、転ばないように」
 行きつけの眼科医院は、この9月に自宅から1分のところに移転してきた。

 医院を出た時には、視覚にそれほどの変化はなかった。
 しかし、28分後に自宅を出て、商店街にある5階建ての白い建物を見上げた。
 そこには今までに見たことがない風景が広がっているではないか。
 最上階に向かって真っ白な輝きがそのまま空に溶け込んで行く。
 描きかけの絵のように、建物の途中からキャンバスの白が残されている状態に見えた。
「なんてシュールだ!」
 ダリの絵画かと見まごう町が出現している。
 とにかく眩しい。

 かれこれ40年以上前に一度眼底検査を受けたことがあった。
 その時は、30分の間に何回か点眼して、瞳孔が開くのを病院で待っていた記憶が蘇った。

 今回は、たった一回の「散瞳薬」で、見える世界が変わった。
 正直言って、ちょっと恐ろしい感じがしなくもないが・・・・
 それはそれとして、検査の結果は何事も問題ないということだったが、視野検査を予約して帰宅した。

 しばらく自宅にこもっていたが、じっとしていられずスーパーに買い物に出かけた。
「おー」
 駅前の横断歩道の白線が、眩しいことと言ったらない。
 光が、目に、痛いほどの勢いで刺さってくる。
 思わずさしていた日傘の先を鼻まで下げて、影を作って歩いていた。
 不謹慎ながら、ピカドンを見た時は、こんなだったのだろうか?
 ことさら慎重に歩きながら、あらぬ想像をめぐらしてしまった。

 カメラのレンズの絞り操作を思った。
 目の前に広がる風景は、極端にハレーションを起こした写真のようだ。
 瞳孔が開きっぱなしになると、世界の見え方がこんなにも違う。
 それを起こしたのは医薬品だ。
 たった一滴で、人間の体・感覚を、一瞬にして変えてしまった。
 
 本を読むことも、デジタル機器を見ることも、する気がおきず、何と無く思い巡らせながら午後を過ごした。
 夕方になって再び町に出た。
 目の前に現れた町は、いつもの見慣れた風景に戻っていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする