電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

モーツァルトの歌劇「魔笛」を観る〜二期会公演

2021年10月10日 08時40分06秒 | -オペラ・声楽
日曜の午後、山形市のやまぎん県民ホールで、宮本亜門演出の二期会オペラ、モーツァルトの歌劇「魔笛」を観ました。だいぶ前から楽しみにしていた公演で、新型コロナウィルス禍の動向にやきもきしながらなんとかなりそうだと判断してチケットを購入していたものです。今回は開演時刻を間違わずにホールに到着、妻と共に二階席へ。



やや高い位置からではありますが、オーケストラ・ピットの手前の方は見えません。目を凝らしてよくよく見ると、指揮者席を中心に左から第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリン、コントラバスという対向配置のようで、ピットが横長になるため管楽器はいつもの正面奥ではなくて、木管楽器が左手、金管楽器が右手、正面奥にはチェレスタ?、やや右手奥にティンパニという配置のようです。

指揮者の阪哲朗さんが登場、満員の聴衆に一礼すると、「魔笛」序曲の、あの三和音が始まります。ほんとはワクワクする序曲の間に期待が高まるところでしょうけれど、こんどの演出ではすぐに幕が上がり、立方体の手前の二面と天井が開いた形のスクエアな舞台で、現代風な家庭劇が展開されます。どうやらわがままなパパが酔っ払って暴れ、奥さんが怒って子供を置いて出ていくというふうな状況のようで、このパパが窓から飛び出すとそこからいかにもRPG風の魔笛の世界が始まるという設定。なるほど、プロジェクションがうまく使われているようです。

第一幕、例によって三人の侍女が登場しますが、なんとまあ、極端に胸を強調した演出です。一瞬、冬瓜を二個かかえているのではないかと思ってしまうほどで、お色気よりは滑稽さをねらったものみたいです。一瞬、グロテスク系の演出じゃなかろうなと心配しましたが、続いて登場する夜の女王も同系統のもので、ははあ、これは夜の女王の側は肉欲を象徴するものなんだなと理解。パパゲーノとタミーノのアリアや夜の女王のアリア等も好調で、山響もモーツァルトの音楽を柔軟にバランスよく聴かせてくれます。

ザラストロが登場、なんだか仮面ライダーみたいな頭だなと思ってよくよく見たら、大脳のシワがむき出しになっているのでした。なんともグロテスクですが、要するに理性の象徴なのでしょう。こういうのがロールプレイング・ゲーム風というのだろうか、インパクトはありますがあまり趣味の良いものではありません。三人の童子はソプラノが演じています。こちらは今風の少年みたいで、好感が持てます。

パパゲーノの前にパパゲーナがはじめて現れるところは、やっぱり面白い場面です。今回は車イスに乗って登場し、パパゲーノを口説きます。この老婆が第2幕では18歳の飛び跳ねるキャピキャピのギャルに変身するのですから、パパゲーナはある意味ずいぶんラッキーな役柄かも(^o^)/

第2幕の中では、やっぱり夜の女王のアリア「復讐の炎は地獄のように燃えて」がすごいです。これに合わせるオーケストラも、中間色の音色を排し原色ギラギラで迫力満点。悪役の一人モノスタトスが霞んでしまうほどです。でも、どーして夜の女王は自分でザラストロを殺そうとせず、娘に殺させようとするのだろう? お話の都合上いたし方ないのですが、不思議な人です、夜の女王(^o^)/

まあ、タミーノとパパゲーノの試練に対する向かい方は実に対照的で、真面目で優等生のタミーノ、天衣無縫、率直ストレートなパパゲーノと、魅力的な人物造形かつ音楽となっています。沈黙の試練はパミーナの誤解を招き、深い悲しみのアリアを導きますし、僧侶たちの合唱は新型コロナウィルス禍になって以来、しばらくぶりの生合唱かもしれません。堂々たる合唱で、良かった〜! 最後の試練を経たタミーノとパミーナの幸福感もいいけれど、何と言っても素晴らしいのがパパゲーノとパパゲーナの喜び溢れる二重唱です。「パ・パ・パの二重唱」は、歌える・演じられる喜びを爆発させたような素晴らしいものでした!

フィナーレの後、画面は一転して最初の現代風の家庭劇に戻ります。試練を終えた若いパパは現実に戻り、妻も家庭の平和も戻ってきてハッピーエンドに。

ゲーム画面を模したと思われるスクエアな舞台装置や、多用されたプロジェクション・マッピングも有効でしたし、ロールプレイング・ゲーム風なデフォルメはいささかグロテスクな面もありましたが、たいへんおもしろく「魔笛」の世界を描いていたと思います。阪哲朗指揮山形交響楽団の演奏は、オーケストラ・ピットから見える限りでは、トランペットの長さから判断してたぶんナチュラル・トランペットを使っているものと思います。座席位置からは見えませんでしたが、ホルンもおそらくナチュラル・ホルンでしょう。音の抜けの良さから判断して、ティンパニもバロック・ティンパニを採用しているものと思います。例えばパミーナの嘆きの場面における弦楽の美しく哀しい響きに現れていたように、オーケストラ自身が作曲当時の時代考証を踏まえてバランスの良い澄んだ響きを実現していることが力になり、山響らしい素晴らしいモーツァルトのオペラ公演になっていたと思います。良かった〜!

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