イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「裏山の奇人: 野にたゆたう博物学」読了

2019年12月08日 | 2019読書
小松貴 「裏山の奇人: 野にたゆたう博物学」読了

著者は、以前に読んだ、「絶滅危惧の地味な虫たち」の著者である。“好蟻性昆虫”を研究する学者なのだが、その研究フィールドが在学していた長野大学からほんのわずかな距離の雑木林が中心であったそうだ。“好蟻性昆虫”とは、その名のとおり、蟻と様々な関係をもって暮らしている昆虫である。蟻の巣に住み着いて食べ物をもらったり、巣の周りをうろついて蟻の食べ残しをあさるコオロギ、シロアリをハントするカゲロウ。卵を産み付けて蟻を生きたエサにする蜂。そんな昆虫を研究している。
そんな不思議な生き物を奇人と称し、そんな地味な虫を研究する自分自身も奇人であると書いている。
子供の頃から昆虫の観察が好きでその時間が欲しいため学校は授業が終わるとすぐに帰宅し友人との交流する時間を惜しんで観察にいそしんだそうだ。その興味をそのまま大学まで持っていき研究者となった。
自らを「人ぎらい」、「中二病」だと書き、出張中に貴重な昆虫の飼育を頼める人がいないから新幹線に乗せて一緒に出張先まで持って行ったというエピソードも載せている。
しかし、その研究の中では得難い研究者や上司出会いがあったということではどうも「人ぎらい」というのでもなさそうだ。自分の興味のある分野についてはとことん行ってしまうという、そんなひとなのだろう。

この本を読んでいる途中に、「ボクの自学ノート」というドキュメンタリーを放送していた。北九州の高校生が小学校の時の課題として始めた自習ノートを卒業してからも中学卒業まで続けたという話だ。小学校の時は先生が読んでくれたが卒業すると読んでくれる人がいない。それではと周辺の図書館や博物館の司書や学芸員にむりやり読んでもらいながら交流を続けたという内容だった。一見変わった中学生で、しかし見ようによってはひとつのことに集中できるすごい才能がある子供であると見ることができる。
ドキュメンタリーでは、こういう生徒の評価を下げるのではなく、個々の才能を伸ばす必要性みたいなものを強調していた。
彼も著者と同じく、人づきあいは苦手なようで、学校は行くだけで、放課後になるとさっさと家に帰り、自分の興味のあることに熱中する。その間に学校では自分の知らない同級生間の交流ができていて浮いた存在になったしまったというようなエピソードが盛り込まれていた。

人ぎらいでもひとつの才能に振り切れたらそれはそれでよい。そこでまた人との交流が生まれ一見社会に対してなんの役にも立っていなさそうでもどこかで貢献していて生活の糧を得ることができるし世間も承認してくれる。
僕が子供のころも家の周りは舗装している道路が少なく、道端にはアリの行列がいっぱいいた。しかしそれを眺めるだけで巣の中はどうなっているのかとかその中に共存している虫がいることなどついぞ知ろうともしなかった。あそこの穴の中にもコオロギが潜んでいたのだろうか。ちなみコオロギを漢字で書くと「蟋蟀」と書くそうだ。
しかし、中途半端はいけない。この人たちと僕の共通点は、“学校が好きではなかった。”ということだが、それが就職すると、“会社が好きではない”となる・・。仕事はやらねばならないことはやるけれどもそれ以上のいわゆる、「パーソナルコミュニケーション」というものにはからっきし興味がない。確かに浮いた存在になってしまっているのだろうが、これといった才能がないからただ浮いてしまっているだけだ。
もっと、これだ!!という才能があって何かの研究者にでもなれていればもっと別の人生があったのではないだろうかと思っても今となってはあとの祭りだ。それをなんとかひた隠しにしてサラリーマンをやり遂げるしかない。まあ、ひょっとしたら、仮面をかぶってサラリーマンをやり遂げるというのもひとつの才能であったりするのかしらと肯定的に思わなければやりきれない。

著者は自分になぞらえて南方熊楠の生涯を紹介している。ここで残念なことが・・。熊楠は金物屋の貧しい家庭に生まれたとなっているけれども、造り酒屋の大金持ちの次男坊として生まれたのが正解だ。著者としてはやはり貧しい家庭で育ち、世間からは注目されなかったが晩年、もしくは没後に新たな評価を受けたのだと思いたいのだろうけれども、せっかく科学についての著作なのだからそこのところはちゃんと調べてほしかったのだ。

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