イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「人工知能」読了

2023年12月12日 | 2023読書
幸田真音 「人工知能」読了

人工知能は本当に身近になってきている。チャットGTPの能力はすごそうだし、僕の車にもどうやら人工知能らしきものが搭載されているようだ。加えて最近、ヤマト運輸に集荷を頼んだら、多分相手はAIなのだろう、僕がしゃべる住所を文字データに変換しているようで、オペレーターを介さずに本当に集荷の配達がやってきたのにも驚いた。人工知能はすでに僕たちの生活に浸透しているのは間違いない。

この本は2019年の出版だが、そんな近未来を見据えたか、人工知能をテーマにした小説だ。
プロローグでは経済産業省製造産業局局長を招いたレベル4の自動運転車の試運転のデモンストレーションで起こった事故で始まる。その事故は、自動運転車があたかもこの局長を襲うかのように突然スピードをあげて突進したことが原因であった。
この部分だけ読むと、意識を持ってしまったAIの暴走とそれを阻止しようとする科学者もしくはホワイトハッカーとの戦いを描いたものかと思うのだが、そうではない。
中盤までは主人公の成長譚とお仕事物語というような形で進んでゆく。主人公は埼玉県のはずれに住む4人兄弟の末っ子である。将来の展望は何もなく、やりたいことをやりながら怠惰な生活を送っていたのだが、自分がまきこんでしまった事故で、兄を不治の病に陥れてしまったことが主人公の生き方を変えることになる。
怠惰な生き方から抜け出すべく一念発起して私立の名門校を受験し、さらに大学を目指すことにしたのである。名門大学の付属高校ではあったものの、生来の怠惰で無鉄砲な生き方は高校時代も続き、エスカレーター式での進学は望めず、やむなく受験したのが受験科目が少ないという理由だけで受験した情報科学科が新設された大学であった。そこで出会ったコンピューターサイエンスや情報処理分野、さらに人工知能についての学問に魅了されてゆく。
そんなに波乱に富みながらうまいこと人生が運ぶとも思わないがそこは小説の主人公だということにしておこう。

その後も波乱に満ちながらカナダ留学を経て、多分、シャープがモデルらしい電気機器メーカーに就職するも、リストラと上司との反目が原因で半年で退社をする羽目に陥る。そんな中に声をかけられたのがかつての大学の恩師であった教授が設立したベンチャー企業であった。
そこでも主人公らしく活躍し業績を伸ばしてゆく。
入社3年目になった頃、物語が動き始める。ベンチャー企業の社長がマンションの管理組合の理事長と副理事長という関係でたまたま知り合ったことから、理事長からプロローグで起こった事故についての調査協力を依頼があった。組合長は警視庁の元警視総監だったのである。
この時点で、同じような事件がすでに2回起こっていた。社長と主人公が捜査協力を始める直前に3件目の事件が起きた。その犠牲者は経産省の副政務官である、主人公の同僚の叔父であった。この同僚も、小説らしく政界の大物の孫という設定である。
その後、いよいよ主人公も特命捜査対策室のメンバーと一緒に事件の謎の解明に加わるのだが、前の2件と3件目の事故は違う自動車メーカーの試乗車であった。事件の共通点は見いだせなかったが動運転車のAIシステムは同じ会社のものが使われていた。主人公はこのAIが何者かによって洗脳されているのではないかと考え、プログラムの解析を始める。
糸口がつかめない中、かつての電気機器メーカー時代の同僚から久しぶりに連絡が入る。退職後、主人公と同じようのAIの研究の道に入り直し、アメリカ留学を経て博士号を取ったという。専攻はイメージリコグニションという、AIに画像を認識させる技術であった。2度目に連絡があったとき、切羽詰まった表情をした同僚から渡されたUSBメモリーには大量の人物画像が保存されていた。
これが事件解決の決め手となる。この事故を仕組んだ犯人は主人公の元同僚であった。博士号を取ったというのは嘘で、父親の突然の死によって留学先からは半年で戻ることになり、ヘッドハンターに声をかけられて入社した会社は裏社会ともつながりがあるような会社であった。おまけに、その会社の社長は自分たちを辞職に追いやった電気機器メーカーを買収した外資系メーカーの役員の身内であった。
犯人はその会社で、日本のAI開発の遅れを知り、その原因が法律やインフラの整備の遅れからであり、その元凶が経済産業省の官僚たちであると考え、孫請けで自動運転車のシステムに画像を記憶させていた中に経産省の官僚たちの顔を覚えさせ、高速道路の侵入矢印と誤認させることで試乗車を突っ込ませたというのである。
その動機とは、自らが日本のAI開発をとりまく現状に警鐘を鳴らすことで同じリストラ組でありながら成功をした元同僚に対する嫉妬心を解消し見返してやりたいという思いからであった。

自分がそんな見られ方をしていたというショックと、そんな友人をなんとか救いたいという思いから心も体も疲弊してしまう主人公であったが、叔父の跡を継いで政治家になろうと決意した同僚のからのエストニアへの視察旅行への同行と言う申し出によって元気づけられる。
エストニアと言う国は国家をあげてAIを駆使した電子政府づくりをしている最先端の国だという。主人公は、AIを使いこなす夢をはき違えて犯罪者となってしまった元同僚に代わってAIを駆使した新しい日本の生きる道に思いを馳せるのであった。

と、いうような内容だ。

伏線の回収の仕方や、主人公の生きてきた道をこれほど多く書いてしまうと物語としてはなんだかアンバランスなのではないかと思ったりもする。

ただ、著者が問題提起したいことというのは日本が抱えている重大な問題だとも思う。
AI以前に、半導体製造の競争でも、日本の政治の指導の仕方の失敗によって海外に後れを取ってしまっている。電気自動車でもそんな雰囲気だ。

「日本社会は性善説のもとに成り立っているが、それを逆手にとって中国企業などは技術やデータを平気で横流しをしている。油断しているうちにとんでもない先を走っているのだ。」
というのが著者の最も伝えたいことであったのだと思う。
うかうかしていたらAIの分野でも他国に後れを取ってしまうぞという警鐘なのだろう。
人口が減少し、おまけに高齢化が進む中、医学を含めた科学技術をいかに進歩させるかということは切実な問題だ。規制をしたがる官僚や責任を取りたくない政治家こそ諸悪の根源なのかもしれない・・。
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