イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「銃・病原菌・鉄 (下)1万3000年にわたる人類史の謎」読了

2019年11月14日 | 2019釣り
ジャレド・ダイアモンド/著 倉骨彰/訳 「銃・病原菌・鉄 (下)1万3000年にわたる人類史の謎」読了


下巻は文字や技術の発達がなぜオセアニアのほうが早かったのか、どうして新大陸では発達しなかったのかということの考察がなされている。

アメリカ大陸の中央部(メキシコや地峡部あたり)でも文字は開発されていたけれども、それが大陸全体に伝播することなくその前にヨーロッパ諸国に征服されてしまった。その差はどうしてだったのか。これは上巻で言及されていたとおり、結局、食糧生産力の差であった。
食料の生産が増えてくると、それを管理するための方法が必要になってくる。在庫を記録し、必要ならば分配する。そういうことを正確に行うためには文字が必要だ。そして、当初、文字を操ることができる人は限られており、その人たちは管理を専門におこなうため食糧生産には従事しない。こういうことができるのは彼らを養うことができる余剰食糧を確保できたからである。これは技術についても言える。青銅器や鉄器を作る人を養うことができるほどの食糧があるからそれを作れる。そして、そういう技術が食糧増産につながる。文字や技術が先か食糧増産が先かはわからないけれども、とにかくそれが両輪となって小さな集団は首長社会から部族社会、さらに国家へと拡大をしてゆく。

それが、アメリカ大陸では食糧増産に手間取りヨーロッパよりも遅れた。征服する側と征服される側の違いはそのわずかの差だけであったという。小さな一歩の差が時を隔てるごとに大きな差となっていく、まるで人生のようだ・・。
そして、人口が密集した世界では伝染病が発生する可能性が高く、そういう場所で暮らしている人たち葉にはたくさんの免疫ができる。無症候性キャリアとなった彼らは海を渡って免疫のない人たちを感染者にして弱らせてしまう。それも征服のために役立った。

ただ、技術革新については、それをどう使うかというひらめきも必要だ。たとえば、車輪について例が挙げられている。車輪はヨーロッパでもアメリカ大陸(メキシコのほうであったそうだが、)でも発明された。しかしながらヨーロッパではそれが産業や戦争など実用に使おうというひらめきがあったけれども、アメリカ大陸では子供のおもちゃとしてしか遺跡に中では発見されていないらしい。著者はこれも人口の差が原因で、人口の分母が大きいとそういうひらめきも増えるだろうというのだ。
こういうことを確率で片付けるというのもどうだかと思うのだが、現実がそうであったのだから仕方がない。そしてもう一度実験してみようということができないのだから覆すことができない。ただ、ハンドトゥマウスの生活ではそんなひらめきは起こらないのは確かなような気がする。現代社会でもそれは同じだろう。貧乏人は食べることで精いっぱいだ。

ただ、一貫して著者は、それは人間として劣っているわけではない。環境がそういう差を作ったのだといたるところで主張している。単に生まれた場所がよかっただけだろう。偉そうにするなということだ。


著者はそういう文明の差と征服される側、征服する側の力学を使い、オセアニア、アフリカの歴史を説明している。

人類の歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に住居した人びとが生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたからであると著者は言うけれども、それ以外に、好奇心旺盛な人や創意工夫の心をもったほんの一握りの人たちの努力の差が時間の流れとともに大きく広がったのではないだろうか。僕みたいな人間ばかりの世界だったら何の進展もない。それが人口の多寡でそういう人の出現する確率が異なるのだと言われればそうであるけれども、科学系のノーベル賞の受賞者が欧米諸国に偏ってしまっているのは身体的、能力的な違いはないかもしれないがはやはり別の何かがあるのではないだろうかと思う。

それに加えて、著者は一切触れてはいないけれども、宗教的な影響もあるのではないだろうか。ヨーロッパに伝播したメソポタミアの文明が元祖を追い越してしまったのは、ヨーロッパよりも乾燥気味で脆弱な気候であったのにもかかわらず、人口が増えすぎたために環境基盤を破壊し気候が変わってしまったからだというけれども本当にそれだけだろうか。宗教の戒律が文明の発達を邪魔したのだと言えないことはないようにも思うがどうだろうか。
ただ、環境問題や心の問題がこれほど叫ばれるような現代、その教祖たちはそれを見越してそうならないようにブレーキをかけてくれていたのかもしれない。
そのブレーキが壊れてしまった世の中は暴走を続けるしかないんだろうなとつくづく思うのである。

また、この本のエピローグには、こう書いている。「社会は自分たちより優れたものを持つ社会からそれを獲得する。もしそれを獲得できなければ、他の社会にとってかわられてしまうのである。」なんとも残酷である。絶対にブレーキを踏むことができないのが人間の世界なのにちがいない。
コメント
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