イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「原点 THE ORIGIN 」読了

2017年10月10日 | 2017読書
安彦 良和、斉藤 光政 「原点 THE ORIGIN 」読了

安彦良和と聞いてピンとくる人はかなりなアニメマニアだ。軌道戦士ガンダムの第1作のキャラクターデザインと作画監督をした人だ。そしてこの本は安彦良和が歩んだ人生を本人のエッセイと弘前新聞の記者が同時進行で紹介するというものだ。

安彦良和は1947年生まれで学生時代は全共闘の闘士として活躍した人だそうだ。
友人には安田講堂に立てこもった人もいれば、浅間山荘事件の当事者もいたというのだから、ご本人は淡々と書いているがかなりの人に思える。その活動の場が弘前大学であった。
どうしてそんな人が対極であるようなオタクの象徴の世界の第一人者となったのか、それに興味があってこの本を読んでみた。
結果としては、学生運動に挫折をして食べるために東京に出て、たまたま虫プロダクションに就職してアニメにかかわる仕事するようになったということだ。そこでもとも漫画を描くことがうまかったという実力が認められたらしく、オタクが学生運動をやっていたというわけではなかったようで、むしろこの世界と距離を置きたかったというのが本音らしい。
だから、学生運動やそれまでに心に持っていた世界に対する思いというのはその後漫画家として世に出した作品に表れているようだ。僕はその漫画を読んだことがないのでこの本に書かれていることだけしかわからないが、ふたつの世界大戦、東西冷戦、ベトナム戦争、そして社会主義の崩壊、それらの国々の内戦、それらはいかにして引き起こされたのか、そういうものを漫画を使って解き明かそうとしているらしい。また、どうして日本人は大きな戦争に突入していってしまったのかということを神話の世界までさかのぼって解き明かそうとしている。

ガンダムも異なる思想を持った者たちの戦争を描いてはいるが、安彦良和の考えをすべて反映させているわけではない。(それはそうで、原案者は別の人だ。)
むしろ、ニュータイプというエスパーが世界の人すべてが解りあえる世界に導くというような考えはまったくなく、だから人々がすべて解りあえることは絶対にない。人々は戦争をやめることはできず、そして戦争は何も生み出さない。そんなある意味諦めにも似たような考えが根底にあるように思える。ガンダムとの共通点は、どちらとも正義でも悪でもないというところだろうか。そんなアニメの世界観がこの業界にある意味革命をもたらし安彦良和は一躍時代の寵児に躍り出た。
そういう、諦めにも似た部分というのは、安彦良和のエッセイの淡々とした書き方にも現れているような気がする。

しかし、一方で、その思いを掘り下げるだけ掘り下げ、人の本質というものを浮き出させようとするこの人の情熱というのはこの世代の人たちがもっている独特のエネルギーなのだろうか。日本の国に共産主義が似合っていたのかどうかは分からないが、学生たちが、自分たちの力で革命を起こすことができるのだという気持ちになれるだけでもものすごい。そしてすべての人は挫折することになるわけだが、よく考えたら、高度経済成長を支え、バブル崩壊まで先頭を走っていた人々というのはまさにこの世代の人々ではなかったのだろうか。そう思うと、やはり途方もないエネルギーと何らかの変革を起こしてやろうという野心を心の内にもっていた人々であったのかもしれない。

もうすぐ選挙が始まるが、立候補する人たちのうち、いったいどれだけの人が本当に革命を起こすことができると信じているのだろうか。首相を退陣させるのだと意気込んでいる人たちも退陣させたその後にどんな世界を創るのだというビジョンはあるのだろうか?あったとしても果たして実現できるのだろうか。政権を持っている人たちも今のままで日本が崩壊しないと本気で思っているのだろうか。(本当に崩壊しないのかな?)

戦争は何も生み出さないがこの国の政争も何も生み出さなさそうで困ったものだ・・・。
コメント
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