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「壺石文」 上 26 (旧)七月廿四日(つづき)、廿五日

(庭の花壇で今最も目立つワスレナグサ)

今、「そよそよ族伝説」という、童話と銘打たれてた不思議な物語を読んでいる。著者は別役実。まだ続きがあるようで、感想を述べ難い。自分の若い時、別役実氏は劇作家として注目していて、戯曲はたくさん読んだけれども、童話を読むのは初めてである。

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「壺石文 上」の解読を続ける。

教えしまゝに、岨路を伝いて下り来れば、灯り障子(しょうじ)に灯影(ほかげ)見えて、人の物言う家あり。すなわち立ち寄りて言う様、何某(なにがし)は遠き国の旅人にて侍るが、この里なる何某を尋ね訪い侍るなるを、夜になりて侍れば、西東も知れず、道たど/\しう侍りければ、如何で導(しるべ)して給いてよと、ひたすら(只管)に頼みければ、うべ/\御難侍らん。せなよ、あからさまにあない(案内)申してよ、というはこの家、刀自(とうじ)なめりかし。
※ 岨路(そばみち)- けわしい山道。
※ うべ/\(うべうべ)- いかにも/\。
※ せな(兄な)- 女性が、夫・恋人または兄弟など親しい男性をいう語。(「あん(兄)ちゃん!」というような呼び掛け。)
※ あからさまに - 急に。突然に。(ここでは、「すぐに」の意。)


いざ、させ給いてよ、と言う/\、つい松おきを吹きつゝ、先に立ちて物するは、二十歳(はたち)ばかりなる男(おのこ)なりけり。げに這い渡るほどにて、疾く至りて、しか/\゛のよし、言い入るれば、いと珍(めずら)かに侍りとて、家、挙(こぞ)りて喜ぶ事限りなし。すなわち、あゆひ解きてつい居れば、おのがじし、名のりして対面(たいめ)す。
※ つい松(続松)- たいまつ。
※ おき(燠)- 熾火。薪が燃えたあとの赤くなったもの。
※ あゆひ(足結ひ)- 活動しやすいように、袴をひざの下で結んだ紐。
※ ついいる(つい居る)- かしこまって座る。
※ おのがじし - それぞれ。思い思いに。


廿五日、つとめて(早朝)後ろの山なる墓に詣づ。浅茅生い茂りたる岡の辺に、ささやかなる地蔵菩薩(ぼさち)を据えたり。片方(かたえ)に蓮臺妙月信女と彫(え)り付けたる。こは菅雄がおばなりけるが、齢(よわい)八十ばかりにて、四年おちに身罷り(死)にたるなり、とぞ言うなる。花手向け、あか奉りて、
※ おち(遠)- 以前。昔。
※ あか(閼伽)- 仏に供える水。


   草の原 消えにし露の 跡訪えば
        そこはかとなく 虫も侘
(わ)ぶめる

その娘も、今年六十には足(た)らわで身罷りにき。すなわち、何某がうわなりにて侍りき。いと実用(じちよう)なる本上(本性)にて、息の限り、織り、縫い、績み、紡ぎ、怠る事なかりき、など、しのびやかに独り言ちつゝ、泪ぐみたり。その墓所も娑都婆(卒塔婆)新しく立ちて、かたはらめ致しかし。
※ うわなり - 後妻。
※ 実用(じちよう)- 実直。まじめ。
※ 績む(うむ)- 麻・苧 (からむし) などの繊維を細く長くより合わせる。紡ぐ。
※ かたはらめ(傍ら目)- わきから見たところ。


   機織り女 管巻き虫ぞ (すだ)なる
        まだ聞かれにし 女郎花
(おみなえし)
※ 管巻き虫(くだまきむし)- くつわむし、のこと。
※ 集く(すだく)- 虫などが集まってにぎやかに鳴く。


読書:「そよそよ族伝説 1.うつぼ舟」別役実 著
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