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「壺石文」 上 14 (旧)六月廿二日~、廿四日、廿五日~

(静岡城北公園のヒトツバタゴ)

午後、駿河古文書会にて、静岡へ行く。城北公園には、今年もヒトツバタゴの花が咲いて、雪が積もったようだ。

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「壺石文 上」の解読を続ける。

廿二日、豊岡の比良可が許に帰りごとに、

   旅衣 遥けきみちの おくも見で
        鹿沼わたりに 帰るべきかは


かくは言い遣り。されど、くるつあした(明旦)に物してけり。さるは仙台人、村上ノ松園と云える男(をのこ)、この頃、こゝに来、宿りけるが、やがて国に立ち帰るなるというめるを、案内(あない)のようにて、類いて罷るなりけり。
※ くるつあした(明旦)- 明日の朝。明朝。
※ 類いて(たぐいて)- 一緒に。連れ立って。


   みちのくに 行くと帰ると 誘い合いて
        知ると知らぬと 急ぐ旅かな


日頃、借りえて着たりける衣を返すとて、書いて袂(たもと)に入れ置きたる歌、

   み山辺や 涼しき宿の 夏衣
        一重(単衣)に君を 頼み来(着)にけり


枕の紙に、

   今際とて 帰る朝(あした)は よひ/\に
        なれし枕ぞ 起き憂かりける

※ 今際(いまわ)- もうこれ限りという時。
※ 起き憂かりける(おきうかりける)- 起きるのがつらいことだ。


夕かけて雨いみじう降りければ、出で立たずなりにけり。人々別れ惜しむようにて、団居(まどい)して酒飲む。何くれとおこ物語をして夜更けぬ。
※ おこ物語(おこものがたり)- 人を笑わせる愚か者などを主人公とした物語。

廿四日、雨降らざれば、つとめて(早朝)こゝを立ちて、鹿沼に来て宿る。夜、人々集いて乞うままに、百人一首の講ぜちす。
※ 講説(こうぜち)- 講義して説明すること。こうぜつ。

廿五日、宇津の宮(宇都宮)まで行きて宿る。かの仙台人は異家にぞ宿りける。(とみ)の事、出来(いでき)ぬとて、こゝより結城という所に罷り申すとて、消息す。明日とてなん、物すとなん。さばれとて、吾れは二、三日こゝに旅居す。されたる松の黒木の柱に、岩を床にて麗(うるわ)しう、新しう作りたる南面に、団居(まとい)して酒飲む。
※ 異家(ことや)- 別の家。
※ 頓(とみ)- にわかなこと。急なこと。
※ 結城(ゆうき)- 茨城県の西部に位置する。現、茨城県結城市。
※ 消息(しょうそく)- 状況や用件などを手紙などで知らせること。
※ さばれ - どうともなれ。ままよ。
※ されたる(戯れたる) -(「ざれたる」とも)風情(ふぜい)がある。しゃれている。
※ 黒木(くろき)- 製材していない皮つきのままの丸木。


   山人を 集えんためか 新室は
        松のお柱 岩の高床
(たかゆか)
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