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「壺石文」 上 12 (旧)六月十九日(続き)

(お寺の駐車場脇のユウゲショウの群落)

昨夜は久しぶりのまとまった雨で、新芽を出している草木が生き返ったように見える。午前中、女房の実家の父の七回忌を義弟夫婦と4人だけで行った。住職は今のお寺に入ってから10年になると聞く。漸く、読経の声も、らしくなってきた。

法事のあと、お墓に参った。お墓から天気の良い時は富士山が見えると住職から聞いた。天気の良い日には、千葉山の肩にわずかの顔を出して見えるという。いつか確認しようと思う。ここから富士山が見えるなら、こゝに墓地を手配しても良いかとふと思った。そんなことを準備しても、早過ぎる歳でも無くなった。

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「壺石文 上」の解読を続ける。

(むろ)前は、清らに、滑らかなる巌(いわお)の壁立ちて、木草だに無ければ、つばさ無くては、え登るべうも見えず。仰ぎ見るに、目くるめく心地せられて、危うき事言わむ方なし。さりけれど黒金の太く大なる釘を、底つ岩根に突き立てゝ、鎖というものを数知らず掛けなめたりければ、こを手草(たぐさ)に取り、あなないに踏みて登れば、けしうもあらず
※ 室(むろ)- 山腹などに掘って作った岩屋。
※ べう(びょう)- 助動詞「べし」の連用形「べく」の音便形。
※ 目くるめく(れい)- 目まいがする。
※ 黒金(くろがね)- 鉄の古称。
※ なめる - 余すことなく及ぶ。
※ あなない - 足場。
※ けしうもあらず - 大したことはない。


   八十掛かる 鉄(まがね)の蔓を 命にて
        登る岩根の 道のかしこさ

※ かしこい - 尊い。ありがたい。

ここより又、谷に下り、峰に登り、汗零え息衝きつゝ、未申とおぼしき方を指して、山廻(めぐ)りして、勝士がたわとかいう、たむけに至りて憩う。岩が根に尻うち掛けて、眺めるに、夕日がげろいて、暑さ焼き付くばかりなり。
※ 汗零える(あせあえる)- 汗がしたゝり落ちる。
※ 息衝く(いきつく)- 苦しそうに息をする。あえぐ。
※ 未申(ひつじさる)- 南西の方向。
※ たわ(れい)- 峰と峰の間の尾根の最も低い地点。麓から見ると峠となっている。
※ たむけ -(峠には境の神が祭られ、供え物をしたことから)山路をのぼりつめた所。峠。
※ かげろう(陽炎)- 太陽光線により、空気が炎の様に揺らめく現象。


   名にし負う 山路は勝士が 火焚き屋に
        あたる夕べの 心地こそすれ


粟野の山に至れば、富士の嶺の遥かに見ゆと人の言いければ、急ぎ行きて見れど、雲立ちさえぎりて見へず。

   富士の峰(ね)を 行きて見ばやと 思い越し
        粟野の山の 甲斐なかりけり


また坂路を下り登りて粟野の社に詣づ。こゝも雫滴る巌の中に、ささやかなるが建たせ給えり。広前は石裂の如し。こゝよりもと越し道を勝士がたわに至り、左に折れて、木の根、岩角真金(まがね、鉄)の綱に取りつき、登り/\て、月山の社というに詣でて、また、しばし憩いて、下り来るに、阿弥陀仏を称えつゝ、人の数多登り来るに会いたり。
※ 広前(ひろまえ)- 神の前を敬っていう語。神の御前。また、神社の前庭。

   玉ちはう 神の山路の 畏(かしこ)さに
        仏を頼む 人の愚かさ

※ 玉ちはう(たまちはう)- 神に掛かる枕詞。
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