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「壺石文」 上 8 (旧)六月十三日夜、十四日

(散歩道のアフリカン・デージー)

「壺石文 上」の解読を続ける。

(十三日夜、)鹿沼の宿に至る頃は、夜、いとう(ふ)けぬらんかし。家々皆な戸鎖して寝にけり。犬どもの見つけてしきりに吠ゆれば、とある片方(かたえ)の古寺に、山門の内に入りて、御堂の段上に尻掛けて、
※ いとう - はなはだしく。ひどく。

   草枕 結ぶもをかし 大寺の
        餓鬼の後方(しりえ)に 額づきもせで

※ 餓鬼の後方に額づきもせで - 餓鬼像の、しかも後ろから額づくとは、効果のない譬えとして使われる。
※ 万葉集に、笠女郎の歌として、
   相思はぬ 人を思うは 大寺の 餓鬼の後方に 額づくがごと


とばかり、まどろむほどに、暁近くなりぬらん。法師ばら、二三人起きいでゝ、御堂の遣り戸を注ぎ開けて、見付けて、怪し何者なるぞと咎(とが)むなる。
※ ‥‥ばら(輩)- 人を表す語に付いて、二人以上同類がいることを示す。ふぜい。たち。ども。ら。
※ 注ぐ(そそぐ)- 心・力などをそのほうに向ける。集中する。


(怪しき者に)あらず。旅人にて侍(はべ)り。夜更けて、この里に至りて侍りければ、犬の甚く吠えけるに怖じてなん、仏の御前に侍(さぶら)い居て、明くるを待ちて侍りぬる、と、言好げに(いら)えければ、蚊の耐え難かりつらんを、あわれの事よ、など気色取りて、情け/\し言いしらうも、いと/\おかしかし。後にこそ、聞きしが、この寺は雲龍寺とかいうとなん。
※ 言好げに(ことよげに)- 言葉が巧みに。口うまく。
※ 気色取る(けしきどる)- ようすを見て取る。
※ 情け/\し(なさけなさけし)- 情愛や思いやりがいかにも深い。
※ 言いしらう(いいしらう)- 互いに言い合う。


明くるを待ちて、山口の安良という人を訪ねて、立ち寄りて物語りす。尾張の名古屋人豊岡の比良可という人、江戸よりこゝにさすらい来て、手習うわらわべどもを集(つど)えて、難波津を教うるをわざにて、浮世渡らいすめりと聞きて、ただ這い渡るほどなりければ、行きて訪(とぶら)ひけり。
※ 山口安良(れい)- 山口安良は鹿沼宿の名主で、鹿沼の連を代表する狂歌師。鹿沼の歴史を調べて「押原推移録」を著した。
※ わらわべ - 子供。子供たち。
※ 難波津(なにわづ)- 王仁が詠んだという「難波津に咲くやこの花冬ごもり今を春べと咲くやこの花」の和歌。幼児の手習いの最初に習わせた。転じて、和歌の道を示す。
※ 渡らう(わたらう)- 生計を立てる。
※ 這い渡るほど(はいわたるほど)-(這って行けるほど近いことを示す)


いと/\珍しき対面(たいめ)なりとかたみに(互いに)言い合えり。
※ たいめ(対面)-「たいめん」に同じ。

   鹿沼方 思い掛けきや 道のく(陸奥)
        道行きぶりに 君を見んとは
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