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「壺石文」 上 3 門出 (旧)六月六日~

(散歩道のモッコウバラ)

モッコウバラという言葉はよく聞くが、その現物と名前が自分の中で逢うのは初めてだと思う。

午後、WHさん来宅、2時間ほど話して帰られる。自分より一回りも年上の、この年になって出来た知人で、歩んだ畑は自分と違うけれども、それだけに色々話を聞けて楽しい。

先の戦争末期、大井川上空で、アメリカの爆撃機と日本の戦闘機の遭遇戦を、幼い子供の眼で見たという話を聞いた。戦闘機は爆撃機の真下から接近しようとしたが、打ち落されて、大井川の河原に落ちた。飛行兵は落下傘で降りて、一命を取り留めたが、住民たちが救助に行くと、身体は脱力して豆腐のようになっていたという。もちろんWHさん自身の経験と、伝聞情報が入り混じって、今ではその区別も出来ないに違いない。

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さあ、「壺石文 上」の本文の解読を始めよう。どうやら、服部菅雄さんのこの紀行文は歌日記という形式をとるようだ。

   草枕 旅より旅に旅衣
        立ち出(いず)る日は 訪(と)う人もなし
  菅雄
※ 草枕(くさまくら)- 旅寝すること。旅先でのわびしい宿り。
※ 旅衣(たびごろも)- 旅で着る衣服。旅装束。


と、独りごちつゝ陸奥(みちのく)指して、今日ぞ門出す。あわれ(ああ!)十年ばかりその上(かみ)、この大江戸に旅居せしほどは、学の窓に来、通える人も、何某(なにがし)(くれがし)と、数えられしものを、と思い出しつめて、晴るゝも今は甲斐なしかし。
※ 独り言つ(ひとりごつ)- ひとりごとを言う。
※ その上(そのかみ)- 過ぎたその時。当時。
※ 旅居(たびい)- 旅住まい。常の住まいを離れた、よその所での生活。
※ 何某(なにがし)某(くれがし)- だれそれ。なにがしそれがし。


立ちし月の初めつ方、この中橋わたりに、相知れりける人の元に、ゆくりなく来、宿り居て、今日、水無月の六日(むゆか)の日にしも、また旅衣立ち重ねてぞ、出でにける。もとより伴う人も無かりければ、ただ一つ心の旅路なりけり。
※ ゆくりなく - 思いがけず。不意に。突然に。
※ 水無月(みなづき)- 6月の別名。旧暦六月の別名。


杉戸の駅家(うまや)の片方(かたえ)の村、須賀という所の薬師(くすし)石橋忠庵をぞ、訪(とぶら)いける。こは、菅雄早く童なりける時、江戸なりける、ある博士(古屋十次郎、昔陽先生)の元に居て、親しかりけるから、学びの同胞(はらから)なりけり。いと珍しがり、相見て、互に(よわい)の老いぬる事など言い/\て、思うどち、昔、学びの窓のうちに集めし雪を(かしら)にぞ見る
※ 杉戸の駅家(すぎとのうまや)- 杉戸宿は、江戸から5番目の奥州街道、日光街道の宿場町。現、埼玉県北葛飾郡杉戸町。
※ 須賀(すか)- 杉戸とは古利根川を挟んだ対岸。現、埼玉県南埼玉郡宮代町須賀。
※ 薬師(くすし)- 医者。(クスシはクスリシのリが脱けたもの。医にクスリはつきもの。)
※ 互に(かたみに)- たがいに。かわるがわる。
※ 思うどち(おもうどち)- 気の合った者どうし。親しい者どうし。
※ 頭にぞ見る -(白髪になっていることを示す)
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