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「壺石文」 中 3 (旧)七月二十九日(つづき)、晦日、八月朔日

(昨日の空の巻雲)

昨日の午後、風があって上空に薄雲が流れて、写真のような空になった。巻雲と呼ばれて、春や秋に多い雲だという。巻雲は絹雲とも書く。

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「壺石文 中」の解読を続ける。

夕つ方、二本松に至りて、八幡、熊野両社の大宮司大原石見ノ介勝依という人を訪(とぶら)いて宿る。折りしも、故母刀自(とじ)の十三回の忌日にて、玉祀り物し侍るなりけり。手向(たむけ)歌、詠みて給えと乞われければ、
※ 大宮司(だいぐうじ)- 神宮、神社の神職の長。祭祀および行政事務を総括する。
※ 玉祀り(たままつり)- 霊祀(れいし)。神霊または死者の霊を祭ること。


   (あ)かざりし 昔しのぶの 露ちりて
        人の袖をも 濡らす宿かな


夜更くるまで物語りして、居寝て跡覚めして、虫の鳴きけるを聞きて、

   秋の夜に 亡き霊(たま)祀る 宿に寝て
        露けき虫の 声を聞くかな

※ 露けし(つゆけし)- 露にぬれてしめっぽい。

晦日、浅見の某を訪ねて案内(あない)させて、蓮菩提寺という寺に詣でて、佐藤氏の墓所に参る。こは江戸なりける教え子、佐藤の相親(スケチカ)が先祖のなりければ、彼に頼まれてなりけり。その上、我植え置きてける萩、ありやなしや、よく見て来て給えよと、懇ろに言えりければ、見て、
※ その上(そのかみ)- 過ぎたその時。当時。

   手向けにと 植えし小萩の 花咲けば
        苔の下にも 秋を知るらん


葉月朔日(八月一日)の日、天気(ていけ)良し。八幡(やわた)の神主、安藤ノ大部重満来て、物語りす。とばかりありて、御社(やしろ)に帰りて、言い落せたりける歌、
※ とばかり - しばらく。ちょっとの間。

   逢いみれば 憂きてふ(という)秋も 忘られつ
        百草千草
(ももくさちぐさ) 花持たる君

返し、

   色も無き 言の葉草を 花と見し
        君を優
(やさ)しみ 露ぞこぼるゝ

やがて広前に侍(さぶら)いて、物語す。夕つ方、二人の神主たちに誘(いざな)われて、安達ヶ原という処、見に行く。阿武隈川を渡りて、観善寺という野寺に詣づ。寺の片方(かたえ)に大なる岩の苔むしたる、廿ばかり重りて、やゝ洞だちたる岩穴の上に登り、団居(まどい)して酒呑む。きりぎりす(コオロギ)の甚(いた)く鳴きければ、
※ 広前(ひろまえ)- 神の前を敬っていう語。神の御前。また、神社の前庭。
※ 安達ヶ原(あだちがはら)- 阿武隈川東岸の称。安達太良山東麓とも。「安達ヶ原の鬼婆」の伝説で有名。


   黒塚の 鬼の衣や 破れ(やれ)ぬらん
        つづりさせてふ
(という) 虫の鳴くなる
※ 黒塚(くろづか)-「安達ヶ原の鬼婆」伝説の、鬼婆を葬った塚。鬼婆自身をも指す。
※ 破れ(やれ)- 破れること。また、破れたところ。やぶれ。
※ つづりさせ -(冬の用意に衣を「綴り刺せ」と鳴くところから)ツヅレサセコオロギの鳴き声。
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