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事実証談 神霊部(上) 41~42 月役の女の穢れに反応した社木

(事実証談より、天宮全図、右手に梛の木が描かれている)

古来、日本では、神聖な場所における血の穢れが忌避され、タブーが幾つも出来ていた。山や寺院など、女人禁制の地が沢山あった。女性は、月経、出産など血を見ることが多いから、立ち入ることが禁じられた。女人禁制ではない神社も、月役時や出産後しばらくは、立ち入ることをはばかる風習があった。そういうタブーを破った女性はすなわち「乱心」したことになる。時代小説のチャンバラ場面で、寺院や神社の境内を血で穢してはならないと、場所を選ぶケースをよくみるのも、同じ発想であろう。

血を忌む風習は、日本が農耕社会に移行した弥生時代以降に生じた風習ではないのかと思う。狩猟、牧畜の社会では生贄の風習が一般で、現代でも血はある意味で神聖視されている。

事実証談、神霊部(上)の第41話、第42話は、月役の女性の穢れに反応した社木の話である。

第41話
豊田郡赤池村、天白社有り。天明年中の事なりしが、同村の西宮社の鍵取、仙蔵という者、ある日、かの天白社の辺りを通りけるに、その社にて木の倒れし音しける故、立ち寄り見れば、廻り五尺余も有りける松の木、中段より折れたるなり。

風もなきに若木の折れしは、ただ事ならじと不審に思い、その氏子の者に告げて糺さしめしに、その頃、乱心せし女、その辺りを狂い歩行(あるき)しに、月役をも憚らず、その社を穢せし故なるべしというにより、祓い清めたりければ、別に崇りはなかりと言えり。
※ 月役 - 月経。月のさわり。月のもの。

第42話
周智郡天宮郷、天宮御社の側に梛の大木ありけるが、寛政年中、ある女乱心して、月役を憚らず、その木の辺りを狂い歩行しかば、それより、かのの大木、紅葉して半ば枯れたるを、祓い清めたりければ、また若葉生い出て、なお常磐に栄えけるゆえ、注連引きはえて、神木とはせり。

※ 梛(なぎ)- マキ科の常緑高木。暖地に自生し、高さ約20メートル。葉は対生し、楕円形で厚い。雌雄異株。熊野神社では神木とされる。また、凪(なぎ)に通じるので特に船乗りに信仰され、葉を災難よけに守り袋や鏡の裏に入れる俗習があった。


(天宮神社のナギ)

第42話の天宮神社の梛の大木は現在も変らぬ位置に存在する。先日、訪れた時に写真を撮ってきた。「天宮神社のナギ」は静岡県指定天然記念物で、樹齢一千年余、天宮神社は、宗像三神を迎えて創始された時、欽明天皇の御代(6世紀)に、記念樹として植えられたと伝わる。昔、巨木巡礼で訪れたときと比べると、支えが増えて頑丈になったのと、樹相がやや薄くなったように見えた。境内の隅に、歌人佐佐木信綱の歌碑があった。

   天の宮 神のみまへを かしこみと 千とせさもらふ 竹柏(なぎ)の大樹は

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