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事実証談 神霊部(上) 36 渥美氏の持山の稲荷社の伐木の祟り

(丹後半島伊根湾、8月8日撮影)

事実証談 神霊部(上)第36話は、渥美氏の持山の稲荷社の伐木の祟りの話である。稲荷社との持山の境界に植えた桧の所属争いが発端で、話がかなり複雑である。伐木に関わった人々に退転したり、退役したり、家族が疫病で死んだり、身内が狐付きになったりと、様々な崇りの形が出現する。

稲荷社の特徴として、狐付き(憑き)が出てくる。狐憑きは、狐に化かされるのとは、また違ったもののようだ。狐が憑くという現象は、昔はざらにあったことのようだが、現代では影を潜めている。一種のヒステリー症状だと考えられるが、そのような状態にどうすればなるのか判らない。精神を極度の高揚させて、そういう状況を自ら引き起こすこともあるようで、一種の祈祷師にそういう人もいたようだ。

現代は科学が発達して謎も解明されたと思う一方、狐憑きをヒステリーと言い換えても、どういうメカニズムで起きるのかが解明出来ない以上、だた言葉を変えただけに過ぎない。科学と言っても、まだまだその程度の段階の事柄が多いように思う。

天龍川の渚(みぎわ)なる渥美家の持山に稲荷社有けるが、その社の裏に村の持山ありて、その境の印に大なる桧の有りしを、文化三年の春、その所預かれる人々、その木を伐りしめんとするを、渥美氏社木を伐る事いかゞと言いけるを、三人ともに強いて伐りしめたりしかど、社木にて有りければ、則ちその木を以って、稲荷の小祠を新たに造らしめたりしかども、社木伐り取りし崇りと見えて、三人の内一人は吾妻に下りて障り有り。一人は退役したり。

また一人はかの社木を以て、これかれと物造らしめたりし故、同年の四月頃より、その家に疫病起りて、別腹の姉は七月廿七日病死せり。また妻は五月朔日より煩い付きしが、その頃別腹の姉に狐付きて、種々の怪有りて退けんとすれども退かず、その狐の住所を尋ぬれば、天竜川の渚(みぎわ)、市左衛門新田に住む狐なる由。

かゝる悩みの中にて有りければとて、七月九日、妻をば親里へ送りて治療なさしめんとて、駕籠にて送りけるに、その日子守の下女に、また狐付きて、中旬の頃まで退かず、中旬過ぎて暫く退きしが、廿日頃、またかえり付きて、廿四日に退きぬ。

それより種々の障り有りし故、その狐をば、七月十二日に小祠を建立して、祭りしかども鎮らず、二里ばかり遠き親里へ預け置きし主の妻に付きたりし故、その始めよりその家にありて取なせし、義信という人、大いに怒り、書状を認め、かの妻に付きし狐の方に送りて諭し、また遷し祭りたりけるによりて、鎮まりしと言えり。(事繁ければ委しくは書き記し難し)

これは衆説数多有りて定め難かりし故、かの家に有りて始めより、事取り計りし義信の委しき物語を以って記しぬ。
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