goo

事実証談 神霊部(上) 43~49 各地社木、倒木・落枝の怪

(周智郡森町村、隨松寺)

風も無いのに社木の大枝が折れる。大木が倒れる。折れ口を見ても若々しい。往昔の人は、そんな現象を怪しみ、何ゆえかと考え、崇りを恐れて、祭りをしたり、祓い清めたり、崇りが無ければ胸を撫で下ろす。触らぬ神に崇りなし。事実証談、神霊部(上)の第43話から第49話までは、そんな話が続く。

第43話
同郡森町村、隨松寺という寺に、文化三年、故有りて、人数多寄り集りて有りしに、寺の西北なる山の大松、風もなきに折れたりしかば、人怪しみ占(うらない)せしに、火災の兆(しるし)なりと言いしが、日を経ずして、かの松折れし山の持主の家の灯籠に、火付きて騒ぎしと言えり。


(周智郡宮代村、神明社)

第44話
同郡宮代村、神明社の前、道際(みちぎわ)なる松の、大枝風も無き日に折れたりしが、如何なる故という事を知らずと言えり。


(周智郡赤根村、天神社)

第45話
同郡赤根村、天神社の傍らに生い立てし大松の木の大枝、文化十三年八月七日九つ時頃、風も無きに折れしが、周(めぐり)り廻り凡そ五六尺有る大枝にて、いさゝか損じたる所も無く、朽ちし所も無きに、折れしは如何なる兆しならんと、怪しみしに何の障りもなかりしと言えり。

第46話
豊田郡境松、天王社の祭礼は、毎年六月七日神輿を見付駅惣社に遷し祭りて、十五日還御なりけるに、文化十三年六月八日、その道筋なる並木の松、故なく折れしをも、如何なる崇りにかと怪しみけれども、いさゝか障りなかりしと言えり。

第47話
同郡松尾郷、松尾社の社中なる松、いと長閑なる日、倒れし故、如何なる兆しならんと怪しみしに、その年は何の障りもなかりしを、翌年同月同日、神主守屋丹後、病死せしと言えり。また文化と言いし年の初めの頃、同社の松が枝、七月の頃、折れたりしを、また如何なる事のあらんと怪しみけるに、同月、社人文左衛門の家、焼け失えしが、その兆しにて有りしかと、守屋氏の物語りなり。

第48話
同郡草崎村、若松明神の社木、故なく折れしを、人皆怪しみ、臨時の祭をなせしと言えり。

第49話
佐野郡細谷村、八左衛門、乙吉居屋敷の境なる大松、文化三年七月十四日より、みり/\と響き有りて、折れんとする様なるに、人怪しみて、かく風も無く長閑なるに、周辺一丈五、六尺の大松の、故なく折れなん事こそ不審けれ。これは屋敷の境には生れ立ちあれども、往昔より天狗の宿り木と言い伝えし木にてあれば、神の崇りなるかと怪しむのみにて、その由を知る者なし。

倒れなば家をも圧し倒さんとて、諸道具をも他家に運び移せしに、翌十五日の四つ時頃、家にも触らず、折れ下りしとなん。その松の大きなりし事は、根より二間ばかり上にて、大臼造りしと言えり。かゝる大木にて有りしを、その折れ口はいさゝか朽ちたる所も無かりしとぞ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )