台湾では、中台協定に反発する学生らが、3月18日から立法院(国会に相当)議場を占拠していたが、4月10日夜、議場から退去した。約3週間の混乱だったが、この間、学生らによる実力行動、警察による強制排除等が行われる一方、馬英九総統、王金平立法院長(国会議長)らは学生らと対話する姿勢を示し、概ね民主的な意志表示のやりとりが繰り返された。このことは、台湾が自由民主主義国家として成熟してきていることを示していると思う。
私が考えるのは、中国における天安門事件との違いである。1989年(平成元年)、民主化を求めて北京の天安門広場に集まった学生・青年に対し、中国共産党は戦車部隊まで繰り出して鎮圧し、虐殺した。どれだけ殺されたか不明であり、いつ明るみに出るかも分からない。これに比べ、現在の台湾は、全く対照的な国家として発展している。
3月30日には学生らが全土に呼びかけた大規模抗議デモが、台北の総統府前で行われた。警察当局によると11万人以上、主催側発表では35万人以上が参加した。参加者は、台湾学生運動の伝統となった黒シャツ姿で臨み、反対運動の象徴・ヒマワリの花を手に「民主主義を守れ」「サービス貿易協定反対」と連呼した。台湾では、こうした集会の自由、表現の自由が保障されている。こういう国家が、全体主義の共産中国に併合されることがあってはならない。
台湾の学生らは、王立法院長が6日に、「両岸(中台)協議を監視する法案が成立するまで協定を再審議しない」と譲歩したことで、「一定の成果が得られた」とし、議場退去を決めた。退去に当たっては、議場内で今後の中台協議に関し、「国家の安全や民主と自由は必ず守られるべきだ」「台湾は主権国家。地位の矮小(わいしょう)化は認められない」などと求める意見書を発表した。今後も、中台協定を「非民主的な手続きで決まった台湾に不利な協定」として警戒を続ける姿勢である。
王立法院長は、11日に本会議を開き、学生らが法制化を訴えた中台間の協定を監視する新法案などを委員会に送付した。今後、議会における議論が期待される。馬総統は、学生らの案は「一つの中国」を前提としない「両国論であり、執行できない」と拒否し、協定の議会承認を実現し協定発効をめざす意欲を表明しており、激しい駆け引きが予想される。長期的に見たとき、自由民主主義のさらなる発展と台湾は一個の独立国家であるというナショナリズムの高揚以外には、中国による台湾併合を防ぐことはできない。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成26年4月11日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140411/chn14041108490003-n1.htm
台湾学生ら議場退去 対中協定監視法の先行約束
2014.4.11 08:49
【台北=吉村剛史】台湾が中国と調印したサービス貿易協定に反発して立法院(国会に相当)議場を占拠していた台湾の学生らが10日夜、議場から退去した。王金平立法院長(国会議長)が6日、「両岸(中台)協議を監視する法案が成立するまで協定を再審議しない」と譲歩したことで、「一定の成果が得られた」としている。
3月18日から続いていた混乱は発生から3週間余りで収束したが、学生らは今後も、中国との協定を「非民主的な手続きで決まった台湾に不利な協定」として警戒を続けていく構えだ。
学生らは10日夜、議場内で今後の中台協議に関し、「国家の安全や民主と自由は必ず守られるべきだ」「台湾は主権国家。地位の矮小(わいしょう)化は認められない」などと求める意見書を発表して、議場を後にした。
ただ、馬英九総統が、中台協定監視法の制定前に協定審議を再開させるとの警戒感は強く、学生らの間には「次は総統府を包囲する」との強硬論もある。
学生らは馬総統が主席の与党、中国国民党が協定審議を打ち切り、強行採決の構えを見せたことに反発して議場を占拠。統一を目指す中国への警戒感から、政権を強く批判してきた。
馬総統は10日、学生らの議場占拠について「正常な民主国家では受け入れられないことだ」と述べた。9日の米シンクタンクとのテレビ会議では、協定の議会承認を実現するため「全力を尽くす」と語り、協定発効への意欲を表明した。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140407/chn14040712370001-n1.htm 【環球異見】
台湾 学生らによる立法院占拠 中台のデタントは終焉か(米紙)
2014.4.7 12:32
中国と台湾が一層の市場開放を目指して昨年6月に調印した「サービス貿易協定」の承認を阻止するため、台湾の学生らが立法院(国会に相当)の議場占拠を続けてきた。台湾では学生らの主張や行動への賛否が相半ばしているが、警戒の対象と位置づけられた中国では無論、学生らに否定的な論調が支配的だ。米国からは、学生らの主張に一定の理解を示しつつ、この事態が中台の将来に及ぼす影を危惧する見方も提示されている。
□ウォールストリート・ジャーナル・アジア版(米国)
■中台のデタントは終焉か
米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は3月28日付の論評記事で、台湾の学生らによる立法院の占拠は「中台間のサービス貿易協定の問題にとどまらない」とし、今回の政治的危機は中台間の緊張緩和(デタント)がまもなく終焉(しゅうえん)するシグナルかもしれないと指摘した。
デモの背景にある、中国への経済的依存が進むことへの懸念について、記事は「学生らと対立する馬英九総統ですら共有している」と分析。例証として、馬総統がここ数カ月にわたって米国主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加など中国以外の国との貿易関係を拡大する必要性を強調していることを挙げる。
では、デモ勢力と馬総統の相違点は何か。記事はこう解説する。「馬総統は、中国側の黙認があって初めて、台湾が新たな国際貿易関係を構築できると考えている。そのためには両岸(中台)のデタントが、サービス貿易協定などを通じて継続されなければならない」
現在の政治的混乱については、台湾の各勢力に厳しい見方を示した。馬総統と与党の中国国民党は「民衆に十分な説明をしなかった」と指摘し、学生らの行為についても「不法な占拠」と批判。最大野党の民主進歩党についても「機に乗じた」とし、「すべての勢力がまずい対応をした」と断じた。
ただ、現在の混乱は中国への警戒感や恐れという「台湾の政治的潮流」を象徴しているとも分析する。「台湾人は、中国の自国民に対する抑圧や、香港の自治権を認める約束を反故(ほご)にしたことなどを見てきた」と指摘する。
こうした潮流は、馬総統の任期満了より早く台湾の対中政策に影響する可能性があるとし、こう警鐘を鳴らす。「その際、中国の指導者たちは両岸関係を以前のあしき日々に逆戻りさせる決断をして、いっそう危険な状態にするかもしれない」(西見由章)
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私が考えるのは、中国における天安門事件との違いである。1989年(平成元年)、民主化を求めて北京の天安門広場に集まった学生・青年に対し、中国共産党は戦車部隊まで繰り出して鎮圧し、虐殺した。どれだけ殺されたか不明であり、いつ明るみに出るかも分からない。これに比べ、現在の台湾は、全く対照的な国家として発展している。
3月30日には学生らが全土に呼びかけた大規模抗議デモが、台北の総統府前で行われた。警察当局によると11万人以上、主催側発表では35万人以上が参加した。参加者は、台湾学生運動の伝統となった黒シャツ姿で臨み、反対運動の象徴・ヒマワリの花を手に「民主主義を守れ」「サービス貿易協定反対」と連呼した。台湾では、こうした集会の自由、表現の自由が保障されている。こういう国家が、全体主義の共産中国に併合されることがあってはならない。
台湾の学生らは、王立法院長が6日に、「両岸(中台)協議を監視する法案が成立するまで協定を再審議しない」と譲歩したことで、「一定の成果が得られた」とし、議場退去を決めた。退去に当たっては、議場内で今後の中台協議に関し、「国家の安全や民主と自由は必ず守られるべきだ」「台湾は主権国家。地位の矮小(わいしょう)化は認められない」などと求める意見書を発表した。今後も、中台協定を「非民主的な手続きで決まった台湾に不利な協定」として警戒を続ける姿勢である。
王立法院長は、11日に本会議を開き、学生らが法制化を訴えた中台間の協定を監視する新法案などを委員会に送付した。今後、議会における議論が期待される。馬総統は、学生らの案は「一つの中国」を前提としない「両国論であり、執行できない」と拒否し、協定の議会承認を実現し協定発効をめざす意欲を表明しており、激しい駆け引きが予想される。長期的に見たとき、自由民主主義のさらなる発展と台湾は一個の独立国家であるというナショナリズムの高揚以外には、中国による台湾併合を防ぐことはできない。
以下は関連する報道記事。
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●産経新聞 平成26年4月11日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140411/chn14041108490003-n1.htm
台湾学生ら議場退去 対中協定監視法の先行約束
2014.4.11 08:49
【台北=吉村剛史】台湾が中国と調印したサービス貿易協定に反発して立法院(国会に相当)議場を占拠していた台湾の学生らが10日夜、議場から退去した。王金平立法院長(国会議長)が6日、「両岸(中台)協議を監視する法案が成立するまで協定を再審議しない」と譲歩したことで、「一定の成果が得られた」としている。
3月18日から続いていた混乱は発生から3週間余りで収束したが、学生らは今後も、中国との協定を「非民主的な手続きで決まった台湾に不利な協定」として警戒を続けていく構えだ。
学生らは10日夜、議場内で今後の中台協議に関し、「国家の安全や民主と自由は必ず守られるべきだ」「台湾は主権国家。地位の矮小(わいしょう)化は認められない」などと求める意見書を発表して、議場を後にした。
ただ、馬英九総統が、中台協定監視法の制定前に協定審議を再開させるとの警戒感は強く、学生らの間には「次は総統府を包囲する」との強硬論もある。
学生らは馬総統が主席の与党、中国国民党が協定審議を打ち切り、強行採決の構えを見せたことに反発して議場を占拠。統一を目指す中国への警戒感から、政権を強く批判してきた。
馬総統は10日、学生らの議場占拠について「正常な民主国家では受け入れられないことだ」と述べた。9日の米シンクタンクとのテレビ会議では、協定の議会承認を実現するため「全力を尽くす」と語り、協定発効への意欲を表明した。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140407/chn14040712370001-n1.htm 【環球異見】
台湾 学生らによる立法院占拠 中台のデタントは終焉か(米紙)
2014.4.7 12:32
中国と台湾が一層の市場開放を目指して昨年6月に調印した「サービス貿易協定」の承認を阻止するため、台湾の学生らが立法院(国会に相当)の議場占拠を続けてきた。台湾では学生らの主張や行動への賛否が相半ばしているが、警戒の対象と位置づけられた中国では無論、学生らに否定的な論調が支配的だ。米国からは、学生らの主張に一定の理解を示しつつ、この事態が中台の将来に及ぼす影を危惧する見方も提示されている。
□ウォールストリート・ジャーナル・アジア版(米国)
■中台のデタントは終焉か
米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は3月28日付の論評記事で、台湾の学生らによる立法院の占拠は「中台間のサービス貿易協定の問題にとどまらない」とし、今回の政治的危機は中台間の緊張緩和(デタント)がまもなく終焉(しゅうえん)するシグナルかもしれないと指摘した。
デモの背景にある、中国への経済的依存が進むことへの懸念について、記事は「学生らと対立する馬英九総統ですら共有している」と分析。例証として、馬総統がここ数カ月にわたって米国主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加など中国以外の国との貿易関係を拡大する必要性を強調していることを挙げる。
では、デモ勢力と馬総統の相違点は何か。記事はこう解説する。「馬総統は、中国側の黙認があって初めて、台湾が新たな国際貿易関係を構築できると考えている。そのためには両岸(中台)のデタントが、サービス貿易協定などを通じて継続されなければならない」
現在の政治的混乱については、台湾の各勢力に厳しい見方を示した。馬総統と与党の中国国民党は「民衆に十分な説明をしなかった」と指摘し、学生らの行為についても「不法な占拠」と批判。最大野党の民主進歩党についても「機に乗じた」とし、「すべての勢力がまずい対応をした」と断じた。
ただ、現在の混乱は中国への警戒感や恐れという「台湾の政治的潮流」を象徴しているとも分析する。「台湾人は、中国の自国民に対する抑圧や、香港の自治権を認める約束を反故(ほご)にしたことなどを見てきた」と指摘する。
こうした潮流は、馬総統の任期満了より早く台湾の対中政策に影響する可能性があるとし、こう警鐘を鳴らす。「その際、中国の指導者たちは両岸関係を以前のあしき日々に逆戻りさせる決断をして、いっそう危険な状態にするかもしれない」(西見由章)
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