ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

郵政とTPPは保守の試金石

2012-04-23 09:41:21 | 時事
 私は、小泉=竹中政権のときに郵政民営化に反対し、郵政民営化法案成立後はその早期改正を主張してきた。小泉構造改革の最中には、私のように伝統尊重的な保守でありながら、郵政民営化政策に反対する者は、ごく少数だった。だが当時の政策はアメリカの要望による民営化であり、市場原理主義のゴリ押しであって、私は民利国益という点から反対した。同じ観点から反対を貫いた保守の政治家は、平沼赳夫、小泉龍司、城内実の各氏等、ごくわずかだった。
 その後、郵政民営化が実行されるにつれ、民営化の問題点、そのまま継続することの危険性に気付く人がだんだん増えてきた。そして、このたび民主、自民、公明3党が郵政民営化法改正案を共同提出し、12日の衆院本会議で賛成多数で可決、参院に送付された。今月中に成立する見通しと報じられる。
 改正案は、日本郵政グループの郵便局会社と郵便事業会社を合併し、現行の5社体制を4社体制に再編することが柱。政府出資の日本郵政が保有するゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式売却に関しては処分時期を明記せず「全てを処分することを目指す」との努力目標としている。
 この案は、小泉構造改革の時に与党として郵政民営化法案を成立させた公明党が提案し、自民がこれに乗り、民主が受け入れたものである。内容は、3月20日の日記に書いたような、いろいろな問題点を孕んでおり、それは未解決のまま、民営化維持と民営化修正の両方向に妥協的で中途半端なものである。しかし、小泉=竹中政権の完全民営化路線を一定程度修正し、今後も完全民営化の見直しのできる余地を作ったという点では、半歩前進である。そういう改正案に自民党が党として賛同したのだから、自民党は変化しつつあることが分かる。
 そうしたなか、現在も小泉=竹中路線を継承する中川秀直元幹事長、菅義偉元総務相、小泉進次郎衆院議員の3人は党の方針に反対した。かつて自民党で完全民営化に反対した議員が数人だったのとは対照的であり、流れははっきり変わっている。私としては、喜ばしい。だが、この変化は、風の流れのようなものである。小泉=竹中政権、さかのぼると橋本内閣以降、アメリカに圧され、財務官僚に操られて強行した構造改革そのものへの批判と総括に基づくものではない。国政に与る政治家なら、腰を据えて経済理論と日米外交史を勉強し、どうしてこんな展開になっているのか、しっかり理解した上で、判断・行動をしてもらいたい。そうでないと、新たな課題に向き合った時に、また風向きだけの判断となる。今まさにTPPの交渉参加問題がそれである。

 TPPと郵政民営化は、根本は同じ問題である。すなわち、アメリカ資本の日本進出の推進と、それに伴う米国による日本支配の徹底である。野田政権はTPP参加の方針を表明し、参加交渉を進めている。自民党の政治家も、数か月前までは大多数がTPP参加賛成だった。だが、TPP参加の危険性を知る論者――東谷暁、中野剛志、三橋貴明、関岡英之等の各氏――がデータに基づいて、説得力のある主張を続けるうち、ようやく自民党の中でも、TPP参加交渉に慎重な姿勢を取る政治家が増えてきたようである。それと言うのも、4月9日、自民党が発表した次期衆院選政権公約原案は、「聖域なき関税撤廃」を前提にするTPP交渉参加に反対を表明しているからである。だが、これも単に民主党政権に反対する姿勢を示し、選挙で票を集めんがためのものであれば、また風の吹きようでどう変わるか分からない。
 TPP交渉参加問題で、一体アメリカは何を日本に求めているか。わが国で郵政民営化改正法案が成立しそうな情勢になると、アメリカは日本への不満を強めている。米保険業界の日本市場への参入が不利になると見て、米側は特に保険分野を問題視している。郵政民営化改正法案が、かんぽ生命の株式完全売却義務を達成目標から努力目標に変えたことによる。米国生命保険協会は「公正な競争条件の確保を求めてきた業界の懸念を無視した」と非難声明を出した。これは当然のことで、TPPはアメリカが強要した郵政民営化を中核として、アメリカが日本に押し出し続けてきた要求を全面的かつ徹底的に突きつけるものだからである。そのため、わが国のTPPの交渉参加が、米国議会で承認を得られるかどうかという問題が出てきた。わが国がアメリカの要求を受け入れない限り、アメリカ議会はわが国のTPP交渉参加を承認しないだろう。
 こういう報道に触れて、はじめて郵政民営化とTPPが一貫した問題であることに気付いた政治家が増えているのではないか。特に自民党内がそうだろう。とりわけ保守を自認する政治家に私は要望する。今からでも遅くはない。構造改革とは何だったのか、アメリカの対日要望と郵政民営化・TPPの関係はどういうものかーー日本の運命を損なわぬよう、しっかり事の本質を把握してもらいたい。
 「戦後レジュームからの脱却」を唱えながら、かつては郵政完全民営化を支持し、近くはTPP無条件参加に賛同してきた政治家は、「戦後レジューム」の構造を、根本から考察し直すべきである。憲法改正や自主国防、首相靖国参拝、東京裁判史観からの脱却、村山談話・河野談話撤回等を唱えていながら、アメリカの圧力による郵政民営化やTPP参加をよしと考えることは、大きな矛盾である。郵政とTPPは、政治家、特に保守の政治家の試金石である。
 以下は、関連する報道記事、並びに郵政民営化とTPP参加に一貫して反対してきた東谷暁氏の文章。

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●産経新聞 平成24年4月11日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120411/fnc12041117430017-n1.htm
郵政民営化見直しがTPPの火種に 米が猛反発
2012.4.11 17:42

 【ワシントン=柿内公輔】環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への日本の交渉参加問題をめぐり、米国が日本の郵政民営化見直しに不満を募らせている。完全民営化路線の後退で、米保険業界の参入が一層阻害される懸念を強めているためで、日本の交渉参加に大きな足かせとなる恐れが強まってきた。
 米通商代表部(USTR)のカーク代表は10日、訪米中の玄葉光一郎外相と会談し、郵政民営化法改正案について、「米国の議会や利害関係者が強い関心を有している」と表明。米側は特に保険分野を問題視、今後、両国で継続協議することになったという。
 改正案では、かんぽ生命保険株式の完全売却義務が努力目標に後退。米保険業界にはかんぽ生命が政府の信頼をバックに営業を続ける可能性が残ることに猛反発。米国生命保険協会は「公正な競争条件の確保を求めてきた業界の懸念を無視した」と非難声明を出している。
 訪米中の民主党経済連携プロジェクトチームの議員調査団と10日会談したマランティスUSTR副代表も懸念を表明。TPP推進派の吉良州司衆院議員は米側から公正な競争条件の確保と市場開放を強く促されたことを明らかにした。
 マランティス副代表は、日本の交渉入りに向けて米議会が承認するための明確な条件はない、としながら「議会と業界が納得する姿勢」を日本が示さない限り、調整は難航する可能性を示唆したという。
 日米の事前協議では、自動車や農業と並び、郵政と保険をめぐるせめぎ合いが激しさを増しそうだ。

●産経新聞 平成24年4月11日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120411/stt12041103160004-n1.htm
【今日の突破口】
ジャーナリスト・東谷暁 自民党の変化、本物か
2012.4.11 03:16

 先日、日本医師会の会長選で民主党支持の現職が落選し「野党にもしっかり対応していく」と主張する候補者が当選した。日本歯科医師会は「人物本位」で政治家を支持する方向に変わりつつあり、他の業界団体でも「民主党離れ」が進んでいる。
 こうした変化を大げさに報じるマスコミもあったが、考えてみれば自然な流れだといえるだろう。民主党を中心とする連立政権は、マニフェストをまったく守れなかっただけでなく、外交において迷走を続け、経済政策でもさらなる景気後退を引き起こす増税路線に固執している。しかも、打ち出す政策のほとんどが党内抗争を招来するという体たらくで、こんな政権が高い支持を維持することのほうが不自然だった。
 この民主党離れは、地方において顕著だ。ことにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加に対しては地方のほうが圧倒的に懐疑的で、その雰囲気は東京にいたのでは分からない。小沢一郎氏のマジックで、民主党に期待を抱いた農業系団体の多くは、すでに民主党に事実上の三行半(みくだりはん)を突き付けている。
 これまでは、民主党離れの受け皿であるべき自民党も迷走していたので、期待はみんなの党や大阪維新の会に向いていたが、最近、自民党にもわずかながら注目すべき現象が見られるようになってきた。ひとつは、TPPをめぐっての議論だ。3月9日に発表した「TPPについての考え方」では「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り反対し、国の主権を損なうような「ISD条項」には合意しないとしている。前者は、推進派がTPPの先進性として強調してきた危険な妄想であり、後者は、外国企業が政府を訴える権利を過剰に制度化するものだ。表現が曖昧だがTPPの最も大きな問題に触れていることは確かである。
 もうひとつは、同月27日の郵政改革に関する総務会の決定で、小泉純一郎政権が成立させた郵政民営化法の核心部分、つまり、郵貯・簡保の株式完全売却条項を修正する公明党案に同意し、完全売却を「努力目標」にまで引き下げたことだ。
 いずれも、永田町の駆け引きの匂いがプンプンするし、努力目標というのも単なる妥協案で、とても郵政崩壊を阻止できるものではないとはいえ、私が今回注目したいのは、こうした決定がなされるさいに自民党内部に見られた変化のほうだ。これまで小泉改革を否定することはタブーだったが、そのタブーもようやくすたれ始めている。郵政民営化のときと「立場は逆転している」という元民営化反対派の観察は過大評価であるにしても、自民党執行部に見られる小泉路線は、いまや饅頭(まんじゅう)の薄皮のようになりつつある。
 マスコミは現在もみんなの党を追いかけ、維新の会を鉦(かね)や太鼓ではやしたてているが、オデキのような新党は膿(う)んで膨らんで破裂するのにまかせたほうがよい。自民党の変化が本物ならば、日本政治は長い麻痺(まひ)状態から脱却する可能性も出てくる。なかには改革の後退だと叫ぶ論者もいるだろうが、改革主義は日本に混乱と衰退しかもたらさなかった。
 自民党の谷垣禎一総裁は、消費税で「話し合い解散」をちらつかせたものの、なんとも迫力不足だった。もう自民党は、執行部の刷新を始めるべきだ。(ひがしたに さとし)
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関連掲示
・拙稿「郵政改革で妥協するな~東谷氏」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/2505343b09c3a151f96dfc461c317f24
・拙稿「自民党が政権公約原案を発表」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc18237752b4e22383c34a18b752aaf5
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13d.htm