ほそかわ・かずひこの BLOG

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増税デフレの愚を繰り返すな~田村秀男氏

2015-11-20 06:41:50 | 経済
 産経新聞編集委員の田村秀男氏は、反骨のエコノミストである。政府に対しても、財界に対しても、主流の経済学者に対しても、遠慮なく自説を主張している。
 さて、田村氏は産経新聞27年11月1日付に「増税デフレの愚 繰り返すな」と題した記事を書いた。ここでも田村氏の主張は明確である。
 田村氏は、安倍政権が行った消費税率8%への増税に反対だった。私も同様である。増税は、アベノミクスの足を引っ張っている。平成29年4月には10%への引き上げが予定されており、それを前提とした軽減税率導入の論議が行われている。これについて、田村氏は言う「生活必需品の一部税率を据え置こうと、増税が引き起こす国民経済への災厄は甚大なことだ。9年度の消費税増税は慢性デフレを引き起こし、26年度増税はアベノミクス効果を台無しにした。消費税率再引き上げという矢は安倍晋三首相が掲げる国内総生産(GDP)600兆円の的をぶち壊しかねない」と。
 日本経済の動向は、中国経済の動向と深く関係する。IMFは11月30日の理事会で人民元を国際通貨に認定すると見られるが、田村氏は、人民元は国際通貨となる資格がないとし、IMFが人民元をSDRを構成する通貨に認定することに反対している。この主張が重要なのは、中国にとってAIIBの設立と人民元の国際通貨化は一体の政策であることを看破しているからである。
 田村氏は言う。「このまま元が国際通貨に仲間入りすれば、アジアでは元が貿易や投融資でドルと並ぶ標準的な決済通貨になり、円は排除されよう。元欲しさに、日本の産業界や金融界は北京詣でに腐心せざるをえなくなり、対中外交の手足を縛るようになるだろう。北京は、『SDR通貨』元を発行すれば、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はドルに頼らなくても元建てで融資できるようになる。中国の軍事部門は外貨準備を取り崩さなくても『国際通貨元』によって戦略物資や先端技術の調達が可能になる」と。
 田村氏の主張は、常にデータの分析に基づく。上記の記事では、わが国の企業・金融機関の対外投資、内部留保と日銀資金の相関をグラフにしている。そしてそのグラフの分析から次のように田村氏は言う。「安倍首相が掲げた名目GDP600兆円の達成は、カネの流れさえ変えれば数年のうちにでも可能とも読み取れる。アベノミクスは資金面で十分すぎるほどの余剰を生んだ。しかし、増税と緊縮財政という最悪の政策をとったために、成果を押しつぶしてしまった。対外投資増加分のうち100兆円が国内投資に回れば、投資額をはるかに上回るGDPの拡大が見込まれる。あるいは、内部留保の増加分がまるまる国内の賃上げや設備投資に回れば同様だ」と。
 ここで100兆円の国内投資というのは、田村氏が26年2月23日の記事で、アベノミクスの三本の矢を統合する「大胆なデザイン」が必要だとし、次のように提言したことと関係する。すなわち「日銀が創出する資金のうち100兆円を国土強靱化のための基金とし、インフラ整備に投入すればよい。強靱化目的の建設国債を発行し、民間金融機関経由で日銀が買い上げれば、いわゆる『日銀による赤字国債引き受け』にならずに、財源はただちに確保できる」と。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/406ef1ccec34b9815767e04b19409c8c
 以下は、田村氏の記事の全文。

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●産経新聞 平成27年11月1日

http://www.sankei.com/economy/news/151101/ecn1511010002-n1.html
2015.11.1 11:00更新
【日曜経済講座】
軽減税率論議の落とし穴 増税デフレの愚を繰り返すな 編集委員・田村秀男

 与党内では、平成29年4月の消費税率10%引き上げに向けて、軽減税率導入論議がたけなわだが、肝心な点を忘れていないか。生活必需品の一部税率を据え置こうと、増税が引き起こす国民経済への災厄は甚大なことだ。
 9年度の消費税増税は慢性デフレを引き起こし、26年度増税はアベノミクス効果を台無しにした。消費税率再引き上げという矢は安倍晋三首相が掲げる国内総生産(GDP)600兆円の的をぶち壊しかねない。
 国内では財務省主導で緊縮財政路線がまかり通る。疑義をはさんだのは、米国の財務省である。先月発表の外国為替に関する議会報告書で、消費税増税による日本の景気減速を取り上げ、財政緊縮にこだわるとデフレに舞い戻るのではないかと警告した。米国の国益思考の表れだろうが、日本の指導層はデフレと緊縮財政をグローバル経済の中での日本の国益と重ね合わせてみればよい。
 国際通貨基金(IMF)理事会は11月下旬、人民元の国際準備通貨単位である特別引き出し権(SDR)構成通貨認定について、投票権シェア70%以上の多数で承認する情勢のようだ。上海株式市場など金融市場の統制など、元はどうみてもSDRの条件である「自由利用可能通貨」を満たさない。ところが、英独仏など欧州は早々と支持表明した。金融界や産業界が元関連金融で得られる利益を重視したからで、その点では米国も同じで支持に回りかねない。
 このまま元が国際通貨に仲間入りすれば、アジアでは元が貿易や投融資でドルと並ぶ標準的な決済通貨になり、円は排除されよう。元欲しさに、日本の産業界や金融界は北京詣でに腐心せざるをえなくなり、対中外交の手足を縛るようになるだろう。北京は、「SDR通貨」元を発行すれば、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)はドルに頼らなくても元建てで融資できるようになる。
 中国の軍事部門は外貨準備を取り崩さなくても「国際通貨元」によって戦略物資や先端技術の調達が可能になる。米海軍がしばらくの間、南シナ海を遊弋(ゆうよく)しようとも、中国はSDR通貨元という軍資金を永続的に活用できるのである。日本がデフレを先延ばしするゆとりはない。
 日本の対米協調路線はデフレを容認する財政・金融政策で支えられてきた。
 9年度消費税増税が引き起こした内需減退で貯蓄は国内で投資されず、米国を中心とするグローバル金融市場に向かう。国内経済は慢性デフレとなり、余剰資金はますます海外に出る。世界最大の債権国日本と世界最大の債務国米国という組み合わせは同盟関係にふさわしいように見えるが、実は資産国が貧しくなり、債務国が豊かになるという、倒錯コンビだ。
 24年末に発足した第2次安倍政権は金融の異次元緩和を柱とするアベノミクスを打ち出し、脱デフレを目指してきた。その「成果」を端的に示すのがグラフである。



 24年末と27年6月末を比較すると、日銀は円資金発行量を181兆円増やし、円安・株高を演出した。企業と金融機関は収益を順調に拡大したが、内部留保となる利益剰余金は80兆円増えた。
 さらに目覚ましいのは対外資産の増加250兆円である。利益剰余金と対外資産は24年末までの3年間でそれぞれ14兆円、90兆円増加したのだが、アベノミクスによってその増勢が加速したわけで、余剰資金を米国など海外に回すという従来モデルが一層強化されている。消費税増税の衝撃で経済成長率がマイナスに落ち込んだ26年度、さらにことし前半とデフレ圧力の再燃は、民間資金の対外流出を促進する要因だろう。
 翻って、安倍首相が掲げた名目GDP600兆円の達成は、カネの流れさえ変えれば数年のうちにでも可能とも読み取れる。アベノミクスは資金面で十分すぎるほどの余剰を生んだ。しかし、増税と緊縮財政という最悪の政策をとったために、成果を押しつぶしてしまった。
 対外投資増加分のうち100兆円が国内投資に回れば、投資額をはるかに上回るGDPの拡大が見込まれる。あるいは、内部留保の増加分がまるまる国内の賃上げや設備投資に回れば同様だ。
 民間は内需が冷えると見込む限り、国内雇用や投資には踏み込まない。予定通りの消費税率引き上げに踏み切るなら、全品目を軽減税率とし、GDP600兆円を達成してから軽減対象品目を見直せばよい。内部留保に課税して、勤労者世代に回せばよい。要は実行プログラムだ。
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 田村氏の主張は、積極財政論である。デフレ状態におけるその政策の有効性は、下記の拙稿に書いた経済学者が理論的に明らかにしている。

関連掲示
・拙稿「日本経済復活のシナリオ~宍戸駿太郎氏1」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13h.htm
・拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13i-2.htm
・拙稿「『救国の秘策』がある!~丹羽春喜氏1」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13j.htm


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