●外交・安全保障の基本姿勢
アメリカの外交・安全保障政策は、世界の針路を左右する。経済政策とともに、影響はすこぶる大きい。
オバマは、多国間協議や対話を重視する姿勢だが、ロムニーは、力の行使も辞さないと主張する。ロムニーはイラン、アフガニスタン、シリア、ロシア、中国、北朝鮮等に対する政策でオバマ政権の姿勢を非難しており、米国の価値観を対外的に強く押し出し、強硬な姿勢を取ることでオバマとの違いを明確にしようとしている。オバマは巨額債務問題で国防費を大幅削減したが、ロムニーは国防予算の300億ドル増や現役兵士の10万人増を外交方針に掲げている。
オバマとロムニーの外交・安全保障政策について、中東、アジア太平洋、中国、日本の順に見ていきたい。
●対中東政策
ブッシュ子政権は、平成13年(2001)の9・11以後、アフガニスタン、イラクに侵攻し、力による対決と管理の政策を行った。オバマ政権は、9・11の真相解明を行うことなく、ブッシュ政権の中東政策を引き継ぎ、若干の政策変更は行いつつも、基本的な方針は変えることなく、進んできている。
9・11は謎の多い事件で、アメリカ同時多発テロの主犯とされたオサマ・ビンラディンについても、不可解な点がいろいろある。オバマ政権は、このアルカイダの指導者の追跡を続けた。オサマ・ビンラディンは、23年(2011)年5月2日、米国海軍特殊部隊が行った軍事作戦によって死亡したと報道された。
イラクでは、ブッシュ子政権下にイラク戦争の大規模戦闘終結宣言が出たが、治安の悪化が問題となり戦闘が続いた。オバマ政権に替わり、ようやく平成23年(2011)12月、米軍が完全撤収し、大統領がイラク戦争の終結を正式に宣言した。だが、イラクにはスンニ派とシーア派の対立等があり、単独で治安維持ができるかどうか、まだ不透明なところがある。
アフガニスタンについて、オバマは米軍の完全撤退を平成26年(2014)中と発表した。ロムニーは「絶対に期限はつけない」とし、スケジュール目標を示していない。アフガニスタンは、ユーラシアにおける地政学的な要所であり、中東にまさるほどの石油が埋蔵されているというカスピ海沿岸地方から石油を搬送する通路である。また世界最大のアヘンの生産地でもある。アメリカはここに重大な利権を持っている。
現在、中東で最もアメリカが関心を寄せているのは、イランである。オバマは「核開発疑惑へは経済制裁で対処する」と言うが、ロムニーはオバマ政権の対応が甘いと批判する。そして、「経済制裁を強化し、軍事的選択肢も排除しない」として、力の行使を辞さない姿勢を示す。ただし、経済制裁や軍事力行使をどのように行うかについては具体的に述べていない。
アメリカ、EU諸国、日本等がイランへの経済制裁を行っているが、もしイランが譲歩せず、ホルムズ海峡を封鎖した場合、アメリカとイランの戦争となる。軍事的には、アメリカが海軍力で優勢ゆえ、比較的短期間で鎮圧される可能性が高い。だが、イランが米軍基地への報復、イスラエル本土へのミサイル攻撃、湾岸諸国の油田や製油所の爆撃・爆破等へとエスカレートすると、新たな中東戦争に発展する恐れがある。また、イスラエルがイランに攻撃を仕掛ける可能性もある。イランの核開発に最も脅威を感じているのはイスラエルだからである。イランが核開発を大きく進める前に叩こうとイスラエルが動くかもしれない。
アメリカにとって、中東で最も重要な国は、イスラエルである。イスラエルについては、オバマもロムニーも、イスラエル支持で共通している。ブッシュ子政権のネオコンは、イスラエルを支持し、アラブ諸国を軍事力で押さえ込み、石油・資源を掌中にし、自由とデモクラシーを移植する戦略を推進した。オバマは、この点でブッシュ子=ネオコン政権の中東政策を、概ね継承している。ロムニーは、外交・安全保障のブレーンやスタッフに、ブッシュ子政権の要員を多く持つから、オバマよりネオコン寄りの政策を行うだろう。
今日、イスラエルが核兵器を保有していることは半公然の事実である。イスラエルは、約200発の核兵器を持つと見られており、中東諸国の中では、圧倒的な軍事力を誇っている。アメリカは、イスラエルの核保有を追認しており、イスラエルに対しては、制裁を行なおうとはしない。その一方、イラクやイランの核開発は、認めない。明らかにダブル・スタンダードを使っている。イスラエルが自由とデモクラシーの国であり、アメリカと価値観を共有しているというのが、その理由だろうが、核の問題は別である。アラブ諸国の核開発は認めないが、イスラエルの保有は擁護するというのでは、ムスリム(イスラム教徒)が反発するのは、当然である。
関連掲示
・拙稿「9・11~欺かれた世界、日本の活路」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12g.htm
アメリカの外交・安全保障政策は、世界の針路を左右する。経済政策とともに、影響はすこぶる大きい。
オバマは、多国間協議や対話を重視する姿勢だが、ロムニーは、力の行使も辞さないと主張する。ロムニーはイラン、アフガニスタン、シリア、ロシア、中国、北朝鮮等に対する政策でオバマ政権の姿勢を非難しており、米国の価値観を対外的に強く押し出し、強硬な姿勢を取ることでオバマとの違いを明確にしようとしている。オバマは巨額債務問題で国防費を大幅削減したが、ロムニーは国防予算の300億ドル増や現役兵士の10万人増を外交方針に掲げている。
オバマとロムニーの外交・安全保障政策について、中東、アジア太平洋、中国、日本の順に見ていきたい。
●対中東政策
ブッシュ子政権は、平成13年(2001)の9・11以後、アフガニスタン、イラクに侵攻し、力による対決と管理の政策を行った。オバマ政権は、9・11の真相解明を行うことなく、ブッシュ政権の中東政策を引き継ぎ、若干の政策変更は行いつつも、基本的な方針は変えることなく、進んできている。
9・11は謎の多い事件で、アメリカ同時多発テロの主犯とされたオサマ・ビンラディンについても、不可解な点がいろいろある。オバマ政権は、このアルカイダの指導者の追跡を続けた。オサマ・ビンラディンは、23年(2011)年5月2日、米国海軍特殊部隊が行った軍事作戦によって死亡したと報道された。
イラクでは、ブッシュ子政権下にイラク戦争の大規模戦闘終結宣言が出たが、治安の悪化が問題となり戦闘が続いた。オバマ政権に替わり、ようやく平成23年(2011)12月、米軍が完全撤収し、大統領がイラク戦争の終結を正式に宣言した。だが、イラクにはスンニ派とシーア派の対立等があり、単独で治安維持ができるかどうか、まだ不透明なところがある。
アフガニスタンについて、オバマは米軍の完全撤退を平成26年(2014)中と発表した。ロムニーは「絶対に期限はつけない」とし、スケジュール目標を示していない。アフガニスタンは、ユーラシアにおける地政学的な要所であり、中東にまさるほどの石油が埋蔵されているというカスピ海沿岸地方から石油を搬送する通路である。また世界最大のアヘンの生産地でもある。アメリカはここに重大な利権を持っている。
現在、中東で最もアメリカが関心を寄せているのは、イランである。オバマは「核開発疑惑へは経済制裁で対処する」と言うが、ロムニーはオバマ政権の対応が甘いと批判する。そして、「経済制裁を強化し、軍事的選択肢も排除しない」として、力の行使を辞さない姿勢を示す。ただし、経済制裁や軍事力行使をどのように行うかについては具体的に述べていない。
アメリカ、EU諸国、日本等がイランへの経済制裁を行っているが、もしイランが譲歩せず、ホルムズ海峡を封鎖した場合、アメリカとイランの戦争となる。軍事的には、アメリカが海軍力で優勢ゆえ、比較的短期間で鎮圧される可能性が高い。だが、イランが米軍基地への報復、イスラエル本土へのミサイル攻撃、湾岸諸国の油田や製油所の爆撃・爆破等へとエスカレートすると、新たな中東戦争に発展する恐れがある。また、イスラエルがイランに攻撃を仕掛ける可能性もある。イランの核開発に最も脅威を感じているのはイスラエルだからである。イランが核開発を大きく進める前に叩こうとイスラエルが動くかもしれない。
アメリカにとって、中東で最も重要な国は、イスラエルである。イスラエルについては、オバマもロムニーも、イスラエル支持で共通している。ブッシュ子政権のネオコンは、イスラエルを支持し、アラブ諸国を軍事力で押さえ込み、石油・資源を掌中にし、自由とデモクラシーを移植する戦略を推進した。オバマは、この点でブッシュ子=ネオコン政権の中東政策を、概ね継承している。ロムニーは、外交・安全保障のブレーンやスタッフに、ブッシュ子政権の要員を多く持つから、オバマよりネオコン寄りの政策を行うだろう。
今日、イスラエルが核兵器を保有していることは半公然の事実である。イスラエルは、約200発の核兵器を持つと見られており、中東諸国の中では、圧倒的な軍事力を誇っている。アメリカは、イスラエルの核保有を追認しており、イスラエルに対しては、制裁を行なおうとはしない。その一方、イラクやイランの核開発は、認めない。明らかにダブル・スタンダードを使っている。イスラエルが自由とデモクラシーの国であり、アメリカと価値観を共有しているというのが、その理由だろうが、核の問題は別である。アラブ諸国の核開発は認めないが、イスラエルの保有は擁護するというのでは、ムスリム(イスラム教徒)が反発するのは、当然である。
関連掲示
・拙稿「9・11~欺かれた世界、日本の活路」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12g.htm