ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

クールグマンの警告と提案

2012-06-13 09:27:13 | 経済
 ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは、その発言が世界で最も注目されているエコノミストの一人である。クルーグマンは「週刊現代」平成24年6月16日号で次のように語る。
 「私は以前から『ギリシャの財政再建計画は現実的に実行不可能だ』と言ってきた。すると『ギリシャのデフォルト(債務不履行)は避けられないということか』と多くの人が聞いてきたが、私の答えは一貫して『デフォルトせずにギリシャが再建する方法は見当たらない』というものだった。その考えはいまも変わりはない。現実が私の言っていたようになってきている。もはやギリシャにはユーロを離脱し、そこから改めてやり直す以外に道は残されていない。では、ギリシャがユーロを離脱するのはいつになるのか。それはおそらく、早ければ6月だ。6月17日に予定されている再選挙で、財政緊縮策に反対している急進左派連合が大勝すれば万事休す。少しは引き延ばすことができたとしても、6月中に50%の確率でギリシャはユーロを離脱することになる」と。
 6月中には離脱しないにしても、そのうちギリシャがユーロ圏を離脱する確率は90%に上るとクルーグマンは予測する。
 「ギリシャがユーロを離脱すると、まずスペインとイタリアで銀行から大量の預金流失が起こることになる」。これは銀行取り付け騒ぎである。「おそらく預金の引き出しと海外への移転の額を合わせて、1000億ユーロ(10兆円)単位になるだろう。そうなれば巨大銀行崩壊の危険性が高まってくる。もちろんスペインやイタリアの巨大銀行が倒れれば、それは『第二のリーマンショック』級のものになる」
 ギリシャ離脱への対応を誤れば、「ユーロ圏で大パニックが起こる」とクルーグマンは見る。大パニックを避けるため、欧州中央銀行(ECB)がスペインやイタリアに資金を貸し付けるだろうが、ECBが動かなかったり、またはそれだけ大量の資金を供給し得なったりした場合は、「預金封鎖」になる。同じ事態はポルトガルでも起こる。各国が次々にユーロ圏を離脱し、ドミノ倒しのようにユーロ離れが起こると予測する。
 欧州でユーロ圏が大変動すれば、世界各国に大波が来る。クルーグマンはわが国については、次のように語る。
 「野田首相も現在5%の消費税を2年後に8%、3年半後に10%まで上げようとしているが、いかにもタイミングが悪すぎる。いずれ消費税を上げなければいけないことにはなるだろうが、それはいまではない。この時期に消費税を上げたら、もっと消費が落ち込み、経済が悪化することは目に見えている。日本の政策当局はいつも、これといった大胆な政策を打たないできた。だからこそ、他国でショックが起きたときにはかなりきつく影響が波及してしまう」
 他国でショックが起きたときとは、先に書いたギリシャ、スペイン、イタリア、ポルトガル等のことをいう。だが、わが国の政府も国会議員の大半も、打つべき経済政策も、世界の経済事情も、よく分かっていない。クルーグマンは、わが国に対し、積極的な経済政策を取るべきとし、3~4%のインフレ目標を掲げることを勧めてきた。だが、わが国の財務省・日銀は、極度のインフレ恐怖症にかかっている。4%といっても、経済成長率と物価上昇率の差を取れば、実質は1%程度の緩やかなインフレなのだが。
 日銀は今年に入ってやっとインフレ目標を1%とすることを発表した。だが、クルーグマンの理論では、本来目標値を3~4%にしなければならない。だが、「もう日銀に期待するのはやめた」とクルーグマンは明言している。そして、現在の世界的な経済危機を乗り越えるには、ユーロ諸国、アメリカ、日本などが一斉に大恐慌並みの大胆で積極的な財政・金融政策を行うべし、と説く。
 増大する政府債務という問題については、「経済が成長すればそれは返すことができる。イギリスがかつて成長を謳歌していた時代にも、同国は大量の借金を抱えていたという事実をどうして誰も語ろうとしないのか。そうした意味でも、成長のための政策がいま求められているのだ」とクルーグマンは言う。
 世界的な経済危機に対処するために、ユーロ諸国、アメリカ、日本などが一斉に大恐慌並みの大胆で積極的な財政・金融政策を行うべし、という提案は、正しいと私は思う。ただし、それを実行するには、中心となり先頭となって、世界をけん引する国が必要である。私は、それを為し得る国は、日本しかないと思う。わが国は、対外債権から対外債務を引いた対外純債権241兆円を持つ世界最大の債権国である。米国は巨額の対外純債務を抱え、欧州諸国も軒並み債務国である。まず日本が大胆な経済成長路線を取り、政府・日銀一体、財務・金融連動の積極策を取って、デフレを脱却し、成長路線に乗れば、それがエンジンとなって、米国や欧州諸国等も成長へと動き出す。その可能性を豊かに持っているのが、日本である。
 日本から陽が昇るかどうかに、これから地球が暗黒・混乱の世界になるか、光明・繁栄の世界になるかがかかっている。精神的・文化的だけではない。経済的にもそうであることを、データが示している。日本の指導層が、そのことを理解できずに、消費増税や基礎的財政収支均衡にとらわれているところに、日本は自滅に向かい、世界を道づれにする、という負のシナリオに迷い込んでいるのである。迷妄を断ち、日本の使命に目覚め、発展的な施策を断固実行することのみが、日本は再興し、世界も発展できる唯一の道である。