ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

オバマVSロムニー8~経済政策の違い

2012-06-27 06:25:11 | 国際関係
●経済政策の違い

 オバマは「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、ロムニーは「歳出削減を直ちに実施する」と公約する。オバマは「富裕層に増税」を掲げるが、ロムニー「富裕層増税に反対」を表明する。
 経済政策では、オバマは、一定の公的ルールに基づく「公正な社会」を主張し、節度を保つ規制によって格差のない、平等な社会を作ろうと主張する。「格差是正のための政府介入」を説き、「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、「富裕層に増税」を掲げる。オバマは年収100万ドル(約8000万円)を超える富裕層を対象に増税する「バフェット・ルール」の正当性を強調する。また「共和党は教育や医療という基本的な必要経費まで削って富裕層減税を行おうとしていると批判する。そして、中間層の保護を掲げ、格差是正を積極的に図ることを約束し、「中間層の将来を決する選択の選挙だ」と支持を訴える。
 一方のロムニーは、「徹底した自由競争」を追及する。「歳出削減を直ちに実施する」と公約し、「富裕層への増税に反対」を表明する。ロムニーは投資ファンド会社へ入って重役をつとめ、その後独立して莫大な資産を築いた実業家である。マサチューセッツ州知事としてハイテク企業を誘致するなどし、州財政を立て直したという手腕の持ち主である。自由競争の徹底によって企業活動を強化し、アメリカの活力の回復を目指す。徹底した規制緩和と富裕層を含む減税を行い、「民間主導によるチャンスに満ちた米国社会をつくる」と訴えている。
 ロムニーは、共和党の中では穏健派とされる。その柔軟さが中道派にもアピールして、オバマに対抗できる唯一の候補と見られてきた。だが、ロムニーに現職大統領を敗れるほどの大衆的な訴求力があるか、というと疑わしい。選挙スローガンが、「オバマ大統領への不信任投票を」というのも、訴求力の弱さの表れだろう。
 ロムニーは、当選すればオバマが1期目の最大の成果としている医療保険改革と金融規制改を、すべて廃止すると公約している。医療保険については、別項で述べることとし、ここでは金融規制改革について書く。
 アメリカでは1929年の大恐慌後、議会上院に銀行通貨委員会が設置された。この通称「ペコラ委員会」は、金融危機の原因と背景を解明するとともに、再発防止のための金融制度改革に取り組んだ。ペコラ委員会は、1929年の株価大暴落前後のウォール街の不正行為を暴き、銀行家が証券子会社を通じた銀行業務と一体的な業務展開をすることによって、巨額の利益を得ていたことなどの実態を明らかにした。その調査結果に基づき、1933年に銀行業務と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法(銀行法)と証券法が成立した。また、翌34年には証券取引所法が成立し、ウォール街の活動を監視する証券取引委員会(SEC)が設立された。
 大恐慌後に設けられた規制は、1970年代までは、巨大国際金融資本の活動を抑えるのに有効だった。しかし、1980年代、レーガン政権の時代から徐々に規制が緩和され、1999年にクリントン政権下でグラム・ビーチ・ブライリー法が成立した。同法によって、銀行・証券・保険の分離が廃止された。その結果、金融機関は、持ち株会社を創ることで、金融に関するあらゆる業務を一つの母体で運営することが可能になった。
 「自由」の名の下、アメリカの金融制度は大恐慌以前に戻ってしまった。ウォール街は、さまざまな金融派生商品(デリバティブ)を開発し、サブプライム・ローン、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)等を生み出し、世界中を狂乱のマネー・ゲームに巻き込んだ。そして、平成20年(2008)9月15日、リーマン・ブラザーズの倒産によって、猛威を振るった強欲資本主義は破綻した。
 オバマ政権は、この反省から金融に一定の規制をかける改革を進めた。ロムニーは、これに反対し、オバマが行った金融規制改革をすべて廃止すると公言している。その根底にあるのは、徹底した自由競争を説く経済思想である。だが、その自由を至上のものとする経済思想こそが、カジノ資本主義を生み出し、借金依存型経済を生み出し、その破綻によって、世界経済危機をもたらしたのである。また、欧州債務危機の遠因ともなって、今もアメリカ経済に影響を与えている。
 アメリカは巨額の債務を抱える債務国だが、リーマン・ショック後、基軸通貨ドルの強みを生かしてドルを刷りまくって、世界中からドルを還流させて、アメリカ経済を動かしてきた。そのモデルそのものが破綻しつつある。そういう時に、その構造のまま自由競争を説く経済政策で、アメリカを健全な形で再建できるだろうか。また、世界経済を健全な方向に進めることができるだろうか。決してできない。
 徹底した自由競争を説く経済思想は、フリードマン、ルーカスらの新自由主義・新古典派経済学を理論的な道具としている。私は、これに対し、強欲資本主義の復活による世界の破滅を避けるために、ケインズの再評価と継承・発展が必要と考える者である。その観点から言うと、ロムニーの経済政策は、リーマン・ショックを体験しても、なお懲りない強欲資本主義を復活・助長することになるだろう。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「日本復活へのケインズ再考」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13k.htm
・拙稿「救国の経済学~丹羽春喜氏2」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13n.htm
 第1章(4)「フリードリッヒ・ハイエクの不作為」、(5)「ミルトン・フリードマンの詭弁」、(6)「ロバート・ルーカスの欺瞞」