ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トッドの移民論と日本42

2011-02-12 08:49:10 | 国際関係
●オランダの大失敗

 EUにおいて、オランダは、EUの加盟国以外の外国人にも、地方参政権を与えている唯一の国である。オランダは、この地方参政権付与によって、大失敗した。わが国でも、定住外国人に地方参政権を与えるべしという意見があるが、オランダの二の舞にならないよう、よくその事例を学びたいものである。
 平成22年(2010)現在、オランダでは、人ロ約1600万人のうち約300万人が外国人になっている。ドイツ、フランス、イギリスにおける移民の人口比は7~9%だが、オランダは20%に近い。
 トッドは、『新ヨーロッパ大全』において、オランダはイギリスより1世紀も早い17世紀の初めから、自由主義的な文化が出現し、宗教的寛容の観念が発達したと書いている。
 15世紀末、スペインはユダヤ人を国外に追放した。ユダヤ人の多くは、宗教的に寛容なオランダに移住した。彼らは、アムステルダムでアムステルダム銀行を作り、銀行業務を発展させた。1688年イギリス名誉革命の際、オランダのオレンジ公ウィレムがイギリスに渡ってウィリアム3世になった。名誉革命後、オランダからイギリスに多くのユダヤ人が移住した。彼らは、金融の知識・技術を発揮して、ロンドンを金融の中心地に変えていった。
 トッドによると、オランダの主要部では、絶対核家族が支配的である。絶対核家族の地域にはプロテスタントが多く、直系家族の地域にはカトリックも分布する。絶対核家族の社会は、イギリスと同じく、自由と不平等を価値とする。自由主義と宗教的寛容は、絶対核家族の地域で発達し、今日に至っている。
 自由・不平等と宗教的寛容を伝統とするオランダ政府は、ヨーロッパ以外からの移民に対して、多文化共存政策を取ってきた。移民の多くは、イスラム教徒である。移民の人口が増えると、オランダ政府は、彼らに外国籍のまま地方参政権を与えた。その際、「5年以上在住の者」という条件だけで、「EU加盟国の国民に限る」という制限を設けなかった。定住外国人の大多数は異文明からの移民、イスラム教徒だった。彼らにも外国籍のまま地方参政権を与えた。その結果、大変なことになった。そのことを認めた政府報告書が発表されている。
 報告書によると、オランダのイスラム系移民人口は報告書当時、総人口の10%を占める。彼らは、オランダ人とは融和せず、都市部に集中して群れを成して居住する。モロッコ、トルコ系移民の二世はオランダ人とは結婚はせず、祖国から配偶者を見つけてくる。
 アムステルダムなどの都市部で、彼らはゲットーを形成する。彼らのゲットーにオランダ人が足を入れようとすると、イスラム系住民は敵意を燃やして攻撃する。そういう険悪な状態になり、オランダ人も危険を感じるようになった。とくに新たに流入したイスラム系移民たちの暴力、犯罪や組織犯罪が目立ってくると、関係は悪化した。国内に別の国家が作られたような状態となってしまった。
 この政府報告書は、国の分裂を防ぐためには、イスラム系移民の集中居住地区を取り壊し、彼らをオランダ人として教育し、同化させる以外にはないと、結論付けている。  
 イスラム系移民の集中居住地区を取り壊そうとすれば、住民は激しく抵抗するだろう。また移民にオランダ国民としての再教育を施そうとしても、今からでは難しいだろう。ここまで深刻な状態になってから同化政策を取っても、手遅れだろうと私は思う。
 西尾幹ニ氏は『外国人参政権~オランダ、ドイツの惨状』(月刊「WiLL」平成22年[2010]4月号)に次のように書いている。
 「もとより、オランダ国民が一丸となって戦う意思があれば問題は解決するだろうが、政治家とメディアは国民のために動かない。何があっても沈黙する。外国人差別を助長するような言論はあってはいけないと逆に封じられ、政府はインターネットを検閲し、法務大臣がイスラム法の導入まで示唆するほどの倒錯に陥った。かくて社会の一体化は壊され、絶望したオランダ人は国外に逃げ出している」
 オランダが混迷を深めていくことを察知した富裕層・知識層は他国に移住し、財産の国外流失も増大しているという。
 オランダは小国である。しかし、欧米では重要な存在である。イギリス名誉革命の際、オランダのオレンジ公ウィレムがイギリスに渡ってウィリアム3世になった。今日では、ウィリアム3世の直系の子孫が、ヨーロッパ各国の王家の多くに広がっている。第2次世界大戦後、イギリス王室とオランダ王室が主軸となり、ロスチャイルド家等の巨大国際金融資本家と連携して、欧米の所有者集団が国際的に連携するために作ったのが、ビルダーバーグ・クラブである。創設の中心となったのは、オランダのベルンハルト公、現オランダ女王ベアトリクスの父だった。オランダ王室は、世界規模で資産運用を図る金融投資顧問団を持つ。ベアトリクス女王は、イギリスのエリザベス女王を遥かに上回る資産家といわれる。こうしたオランダが今日、異文明からの移民の流入によって、混迷に陥っていることは、ヨーロッパ文明の将来を暗示するものと言えよう。

 次回に続く。