●アメリカにおける多民族化
アメリカは、大英帝国を上回る21世紀の世界帝国である。そのアメリカにも、イギリスと似たような展開が予想される。メキシコ等からヒスパニックが流入し、中国・ベトナム等のアジア人が渡海する。帝国の中心部には、富も仕事もある。周縁部は、貧困と政治的抑圧が覆っている。その周縁部から中心部へと、多数の移民が流入する。
アメリカはもともと移民の国である。ヨーロッパから移住した白人が、先住民のインディアンを駆逐し、アフリカから連行した黒人を奴隷に使用した。東欧・アジア・南米等からの移民を受け入れ、アメリカは世界で最も多民族化した国家となっている。白色人種に対する有色人種の割合が多くなり、特に近年、ヒスパニックが増加している。人種の坩堝というより、融合しないまま混在する「諸民族のサラダボール」というべき状態である。
アメリカで平成21年(2009)1月、建国以来、初めて黒人の大統領が誕生した。このことはまだアメリカが有色人種の優位な国になったことを意味しない。アメリカは貧富の差が大きく、社会保障が発達していない。新生児死亡率が高い。国民全体をカバーする医療保険制度がない。その面では、先進国とはいえない。こうしたアメリカにおいて、旧移民である黒人は依然として、普遍主義の下層にある無意識的な差異主義の対象である。「領主民族のデモクラシー」によって、白人/黒人の二元構造の一方の側にある。オバマ大統領は、黒人ではあっても、まだ数少ない白人指導層の中に入った「黒い白人」である。しかし、長期的には、アメリカは一層、多民族化し、白人の優位は後退していくだろう。ただし、社会の最上層は、アングロ・サクソン=ユダヤの富裕層が占め、その下の階層が多民族化するという構造が予想される。
●ヨーロッパとアメリカの比較
アメリカは建国の理念として、自由の国という国家像がある。またデモクラシーとキリスト教がある。そうした建国の理念に従うように移民を教育し、アメリカ国民にしていっている。これに対し、ヨーロッパには、アメリカのような、明確な統合の理念がない。EUは広域共同体だが、その実態は歴史・文化・伝統の異なる国家の連合である。アメリカは共和主義だが、ヨーロッパは君主制国家が多くあり、政治的にも多様である。各国の移民に対して、アメリカほどの文化的思想的な感化力はない。
ヨーロッパでは、なにより文明の中核である宗教が活動を弱め、キリスト教の信仰が後退している。知識層や若い世代を中心に脱キリスト教化が進んでいる。アメリカがキリスト教を保持し、キリスト教が自由とデモクラシーとともに、建国の理念を構成しているのと対象的である。私は、統一ヨーロッパは、アメリカほど非ヨーロッパからの移民を同化させることは、できないと思う。
次回に続く。