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七十五羽の烏

 12月23日のTVのニュースで、22日に福島県下のさる町の公立高校周辺で多数のカラスの死骸が見つかり、その死骸を解剖したが、24日現在死亡原因が解らず、鳥インフルエンザ検査も陰性であったとの報道があった。原因不明のカラスの死骸をカウントしたところ、その数は75羽だった。カラスの数が調度75羽だったということで、僕は往年の傑作エンターティンメント小説・量産作家、都筑道夫氏の本格推理小説の名作、「七十五羽の烏」を思い出した。

 

 「七十五羽の烏」を僕が読んだのって、僕が東京の会社に勤めていたサラリーマン時代で、まあ、その後も地方で勤め人だった訳だから、基本、ずっとサラリーマンを続けた訳だけど、東京中心で関東圏で生活した時代の、さる大企業の埼玉・熊谷営業所勤め時代に読んだ本ですね。僕の20代後半時代で、だから、正直、「七十五羽の烏」のストーリーはほとんど記憶していません。僕は基本、読んだ本の再読はしない人ですし、何しろ読んだのって何十年も昔の話ですから。

 

 でも、まあ、その小説がとても面白いミステリ小説だった、というのはよく覚えています。謎解き主体のいわゆる本格推理小説ですね。物語の舞台がど田舎で、地方の、いわゆる田舎の旧家とかそういう、昔ながらの田舎の由緒ある名家みたいな大きな田舎屋敷ですね。親族とか縁戚関係の繋がりが強くて、けっこう莫大な財産を持った大きな家と複雑な親族。一番解りやすい例は、横溝正史の「犬神家の一族」みたいな、おどろおどろな世界観の舞台かな。名探偵・金田一耕助が活躍するシリーズの世界観で、「七十五羽の烏」他、都筑道夫先生のこのシリーズは割りとユーモア味も加味されているから、横溝・本格・金田一シリーズのパロディー要素もあるのかも知れません。

 

 ミステリ小説「七十五羽の烏」は、名探偵・物部太郎が謎解きして行く本格推理小説ですが、この物部太郎シリーズは全部で長編が三作続いていて、僕は当時の角川文庫で三作とも読んでます。読んだのは、多分、1981~3年頃ですね。けっこう好きな物語世界でした。面白かった。正体不明の連続殺人の怖さと、ところどころ味付けされたユーモア感。探偵・物部太郎がエライ怠け者で、とにかく凝っと寝転がってて動かないような大変なモノグサで、別名モノグサ太郎と異名を取る名探偵です。だが、もの凄く頭が良くて、ひとたび興味を持てば頭脳フル回転で謎を解いて行く‥、みたいな探偵キャラですね。このモノグサ太郎を動かすのが、ワトソン役の、名前忘れた、もう一人、シリーズレギュラーの登場人物が居て、この人は都筑道夫の他のミステリ小説にも探偵役で出てるんだけど、名前忘れた。このワトソン役さんが何とか、物部太郎の重い腰を上げさせて、難事件場所へ連れて行く。放っとくと物部太郎はすぐに横になって怠けるので、太郎の尻を叩いて、何とかモノグサ探偵を動かしながらも、事件解決に向かわせる。そういう、探偵コンビ設定の謎解きミステリですね。

 

 都筑道夫先生は、僕の生まれた年に早川書房に入社し、エラリークインズ・ミステリマガジン初代編集長を務めた方で、出版社退社後はプロの作家になられ、その作風はミステリ小説主体ながらバラエティー性に富んでいて、ミステリなら、本格推理からユーモアもの、ハードボイルド、サスペンス、パロディーまで、そして、本人がエッセイの中で書いていた、「僕は日本で一番幽霊小説を書いた小説家と言われるような作家になりたい」というような、そういう一文のように、ホラー小説もいっぱい書いています。そしてまた、SF作品も多い。正に小説職人とでも呼びたくなるような作風です。エンタティンメント小説の分野だったら、何でもござれ、あらゆるジャンルを網羅している、と言っても過言でないような才人です。その他にも、評論やエッセイ集も書いているし。また、戦後昭和のまだモノクロ映像だった時代のTV黎明期の、スパイアクションドラマのストーリー作りの仕事もされています。正に、物語を作り文章を書く分野では、八面六臂の活躍をされた鬼才の方ですね。あ、そうだ、都筑道夫先生はあらゆるジャンルの小説を書いたけど、恋愛ものとかホームドラマみたいな作品はありませんね。パロディー風推理小説の登場人物たちのやり取りが、一見、ホームドラマ風とかならあるのかも知れない。最初の頃は漫画原作の仕事もやってるし、キャラ設定のミステリ小説もけっこう多いですね。物部太郎だって、キャラといえばキャラだし。

 

 件の、現実の、七十五羽の烏のニュースですが、その後、多分、烏の死骸の発見数も、もっと増えたんだろう、と思いますが、この文を書いている現在は「七十五羽の烏」とは言えず、ひょっとして百羽を越えてるのかも知れませんが、ネットなどでは、一部、死骸が見つかった場所の地域が地域なだけに、放射能と関連付けて考える書き込みもあったようです。この文章を書いている現在、まだ烏の死因は特定されておりません。福島のとある町の公立高校の周辺、という限られた地域での烏の大量死骸発見のニュースの、その烏の死因は、今のところ、解っておりません。しかし、放射能渦が原因なら、カラスみたいな大型の鳥に被害が及ぶ前に、もっと、雀のような野生の小鳥に兆候が出るでしょうし。小型の鳥類や、その前に、昆虫などのもっと小さな野生の生き物に。河川の魚類などにも。カラスの死よりも、そういう小型の生き物の方が先だと思います。さらには、海岸べりの海ですね。長期に渡って、あれだけ汚染水が漏れ出して海に溶け込んでいるのですから、陸地の生き物よりもまず先に、海に棲む生き物に兆候が出るでしょうからね。はっきりしたことは言えませんが、放射能渦はないんじゃないかなあ。野生のカラスが、毒になるような物を食べたか食べさせられたか。というのもあるけど、解剖の結果、カラスの消化器とかから毒物の痕跡は出て来なかったのか?イロイロと考えられますね。このカラスの大量死は今後も続くのか?とかね。国内のカラス被害の実態も、あちこち非常に多いですからね。カラス被害に、困り果てたり腹を立てたりした個人が、勝手にカラス駆除をした、なんてことも考えられないか(?)。でも実際、福島の原発事故被害地域とその周辺の、植物や昆虫や小型の鳥類などの検査はどうなってるんだろう?何か放射能被害の兆候が見られるんだろうか?多くの学者たちが調べてはいると思うんだけど、あれから四年と半年以上経つけど、どうだろう、何か少しでも異変が出ているのか?気にはなりますね。

 

 もうすっかり忘れていた「七十五羽の烏」の小説の内容ですが、ちょっとネットで調べてみたら、事件の発端は、平将門の娘・瀧夜叉姫の祟りで伯父が殺される、とかいう探偵依頼内容の事件に、サイキック・デティクティブ-心霊探偵を標榜する物部太郎が、名コンビで助手役の片岡直次郎に叱咤され、重い腰を上げさせられて、おどろどろな怪奇ムード全開の連続殺人事件に取り組む、というお話のようですね。このシリーズは全部で三作で、どれも文庫で分厚い長編小説です。「朱漆に血が滴る」も、お話の雰囲気は似た感じかな。「最長不倒距離」は地方の雪山のスキー場が舞台ですね。どれも抜群に面白く、物語世界を堪能できたことだけは、何十年も経った今でも、その感じだけはよく憶えてるつもりです。

 

 

 
 

◆七十五羽の烏 (光文社文庫) [Kindle版] 都筑道夫(著)

 
 

◆七十五羽の烏 ―都筑道夫コレクション<本格推理篇> (光文社文庫) 文庫

 
 

◆最長不倒距離 (光文社文庫) [Kindle版] 都筑道夫(著)

 
 

◆都筑道夫ドラマ・ランド 完全版 上 映画篇 単行本

 
 

◆朱漆(うるし)の壁に血がしたたる 光文社文庫 [Kindle版]

 
 

◆幽霊通信 (都筑道夫少年小説コレクション (1)) 単行本

 
 

 25日朝のニュースでは、23日24日に同じく鏡石町の岩瀬農高周辺で、同じようなカラスの死骸が何羽も発見され、22日までに見つかったカラスの死骸75羽に数が追加され、この時点でのカラスの死骸の合計が85羽になっている。新たに発見された死骸に関しては、インフルエンザ検査は行われていない。初めの75羽分からは、県は国立環境研究所に検体を送り、遺伝子検査している。

 
 

 29日の新聞ニュースに、この時点で見つかったカラス死骸86羽で、何羽かの検査で消化器の内容物から農薬の成分が検出されたって、出ていたようですね。カラス死骸の近くにこの農薬成分と同じものが混入された油揚げが見つかったけど、カラスの胃からは油揚げは出て来てない、とかよく解らんみたいです。いづれにしろ、放射能や病原体ウイルスでなく、人間の仕業が濃厚な感じ。

 
 
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