ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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円高トラップに嵌まり込む日本 その10 為替の決定要因へのコメント

2011年12月09日 | 資産運用 

 前回は、為替の決定要因の学説にはいくつかの説があることを列挙しました。今回はそれらに私なりのコメントをつけてみます。

 1の国際収支説、これは取引の結果得た例えばドルを円に転換するために売らなくてはいけない、まぎれもないドル売り要因です。売買の取引動機、量、時期なども実にクリアーです。そして、量的に把握できているところが、私に対して説得力を持ちます。

 2のインフレ格差説(相対的購買力平価説)はどうか。確かに長期的には購買力平価のカーブとドル円為替レートのカーブは同じ方向に動いてきました。しかし、ちょっと疑問を感じる部分があります。

理由1.貿易(実需)で得たドルを売る人は、インフレ較差がどうあろうが売らなくてはならなず、これに影響を受けているとは思えません。
インフレ格差がこうだから売ろう買おうという投資家も中にはいるでしょう。それによる売買のボリュームは不明だし、ほとんどのこうした投資家は買ったものは売り戻すし、売った物は買い戻す往復売買です。それに対して実需の売りはインフレ較差にはかまわず一方通行で、1銭1厘でもよいレートで売ろうとするだけです。

理由2.購買力平価と為替レートの因果関係が私にはよくわかりません。
簡単に解説しますと、インフレ格差が円高をもたらすのか、円高が逆にデフレ効果を持ってインフレ格差をもたらすのか、イマイチ私にはわかりません。どなたかおわかりの方がいらしたら、説明をお願いします。

理由3.これは横道ですが、日本は本当にデフレなのか不明だから

物価が下がるのがデフレなら、それは確かにデフレです。でも下がる原因が、もともと理不尽に高い日本の物価が、国際価格に収れんしていく過程だったら、デフレと言えるでしょうか。
 過去を振り返ると、日本の物価は理不尽に高く、依然として国際価格への収れん過程にあるように私には見えます。デフレと言う言葉は「貨幣現象」のはずですが、衣料価格で言えばユニクロ価格への大変革は決して貨幣価値の上昇などではなく、イノベーションを通じて国際価格へ収れんしていく過程だと私は思います。同様に40インチのフラットテレビの価格は、1年前の今頃、エコポイントを得るために行列を作って20万円だったのが、地デジ導入後に7万円になりました。これは円の貨幣価値がこの間に3倍上昇したからでしょうか?ちなみに今、クリスマスセールのアメリカでは500ドル(4万円程度)です。そしてコメは関税が700%なので、まだ8分の1になる余地があります。資産価格も同様で、皇居一つでカリフォルニアが買えたなどというバカバカしい話は別としても、日本の不動産価格は収益還元法で計算していなかったため、理不尽に高かった。

 これらを貨幣現象だとは決して言えないと思います。ということで購買力平価説は、

① 因果関係が理解できない私に対しては説得力を持っていません

② 日本の物価は理不尽に高く、依然として国際価格への収れん過程にあるいと思っている私には、説得力をもっていません。単に統計的には同じ方向の動きになっているだけと私には見えます。

☆横道ついで

87年初に私は東京からNYに転勤しました。1ドルは155円でしたが、その時に出会ったこと。

① ドイツ製ベンツのCクラスの新車が、アメリカで一番安いことを発見して買った。日本では650万円、アメリカでは387万円、ドイツでは426万円。ドイツとアメリカの差は、消費税の差10%だった

② フランス製ビックのボールペン、日本では100円、アメリカでは1.98ドルもする、高いと思ったら1ダースの値段だった(笑)

③ 缶ビールの値段、日本の1本とアメリカの6本が同じような値段だった

日本人はだまされていたんですよ!

ということも言えるし、

舶来品好きで「高くないと買わない」性癖を持っていた!

とも言えるかもしれません。

 ちなみに、最近知り合った日本製ゴルフクラブを中国人に売っている人は、日本でも高い60万円のセットを金ピカにメッキして650万円で中国人に売っています。

それに較べりゃ、日本人はまだ可愛いもんか(笑)

つづく
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円高トラップに嵌まり込む日本 その9.為替の決定要因

2011年12月05日 | 資産運用 

 円高の大きな原因は経常黒字の継続だと思われます。為替レートの決定要因はこの経常収支差説だけでなく、論者によって様々な説があり、統一見解はないようです。教科書的に代表的なものを列挙しますと

1. 国際収支説(経常収支説)
国際収支の差が決定要素だという説。現在の日本であれば黒字分のドルを円に転換する必要から、常にドルが売られる。かつては経常収支の差がかなり大きな要因となっていたが、最近は資本移動も大きくなり、資本収支も入れて考える必要がある。この説は期間を区切った短期的説明に有効と言われる。

2. インフレ格差説、相対的購買力平価説
日本はデフレでアメリカはインフレなので、円の通貨価値はドルに対して上がっていく。つまり通貨の相対的購買力に為替レートは収れんするという説。長期的説明に有効な説と言われる。

3. 絶対的購買力平価説
ビッグマック指数が代表例。日米のビッグマックの価格から為替レートを導く。日本で320円、アメリカで3ドル90セントなら、円レートは割り算で82円。すべての物価で一物一価が国際的に成立すれば有効かもしれないが、それは無理。

4. 金利平価説(アセット・アプローチ)
日米の金利差が、投資家の通貨選好に影響する。金利の高いドルの将来の価値は金利差分低く評価される。この10年近くは、2年物の日米金利差が、円ドルレートの推移に合致していると言われる。

5. 為替心理説(最近言われる、安全資産への逃避説もこれに含まれる)
ユーロは危険、ドルも危険、円は比較的安全というように、為替は心理によって動くという説。そういうこともあるでしょう。

6. 材料が見当たらない時の円キャリー巻き戻し説
金利の安い円を借りて、金利の高いドルに投資。それを精算する(巻き戻す)ため、ドルを売って円を買い戻すので円高に振れる。じゃ、最初にドルに投資するときのドル買いはどう説明するの?


 為替レートは通貨売買の出会いで決定されます。これはまぎれもない事実です。では、そのレートが刻一刻と変化するのは何故でしょうか。為替取引は様々な参加者が様々な動機で取引をしますし、参加者の取引高も様々なら、取引タイミングも様々です。ですので、刻一刻と変化します。その刻一刻変化するレートにいちいち説明を加えるのは意味があるとは思えません。それは1日単位で見ても同様で、為替のアナリストが毎朝モーニングサテライトで解説するのも同様で、毎日違った説明を続けるアナリストには、「お気の毒さま」としか言いようがありません(笑)。

では次回はこれらの説に、私なりのコメントを付けてみます。


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円高のトラップに嵌まり込む日本 その8. 円高について①

2011年12月02日 | 資産運用 

 前回は、貿易収支がたとえ赤字になっても、所得収支が黒字なので、両方を合計した経常収支は黒字にとどまっている、というお話をさし上げました。

じゃ、なんで所得収支は黒字なの?

 所得を得るには、タネをまく必要があります。タネは海外への投資です。タネまきは国際収支の統計では、資本収支として出てきます。支出でなく収支なのは、海外からの投資というお金の流入もあるからです。投資をしないと収穫である金利や配当はもらえません。投資残高は毎年のフローではなく、ストックの範疇になります。貿易収支や所得収支はフローの範疇です。ストックとしての日本の純資産残高は10年末の251兆円です。それが所得収支(フロー)の黒字をもたらす源泉です。

そもそも純資産残高が何故これほど積もり積もったのでしょうか。もちろん経常収支が黒字を続けているからです。その過程を今一度振り返りますと、

1. そもそも貿易黒字が経常黒字をもたらしていた
2. その累積が対外純資産の増大をもたらした
3. 円高で貿易黒字が減少しても純資産からのリターンである所得収支の黒字をもたらす
4. それが経常黒字を維持している


 これが現在の日本の状況です。ただし、対外純資産の残高は、外貨建てなので、外貨ベースで目減りしていなくても、円ベースに直すと実は目減りしています。それでも251兆円もあります。

 経常黒字は通奏低音のように常に外貨売り、特に決済上はドル売り圧力をかけ続けます。その規模を10年間、追ってみましょう。
                               単位兆円
    01年 02 03 04 05 06 07 08 09 10年
    11兆 14 16 19 18 20 25 16 13 17兆円

 振幅は相当あるものの、コンスタントに黒字を継続しています。円高に対して政府は時々介入をします。今回75円台を一気に79円台にもっていった激しいドル売り介入がありました。その規模は、7兆円から10兆円弱くらいだとのことですが、介入だけでは円高の流れを一時止めることはできても、反対に向かせることは難しいと思います。もちろん、この経常黒字からの売り圧力は様々な通貨に対する売り圧力でドルだけではありませんが、かなりの部分はドルで決済されますので、介入はドルが有効でしょう。

つづく
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