前回は為替の決定要因の一説、インフレ格差説について私のコメントを述べました。それについてもう一つコメントを加えます。インフレ格差は長期では為替の決定要因であるとの説ですが、日米はたしかに為替レートの方向が一致するのですが、中国のケースはどうでしょうか。
例えば07年から11年までの5年間の毎年のインフレ率を単純平均しますと、以下のようになります。
中国;3.51%
アメリカ;2.17%
日本;0.25%
インフレ率が一番高いのは中国で、アメリカは真ん中、日本はほとんどゼロに近い数字です。「アメリカのインフレ率は日本より高いので、円高になる」というのであれば、何故中国のインフレ率はアメリカより高いのに、元はドルに対して安くならないのでしょうか。中国は為替のコントロールをしていますが、それは元高を抑える方向ですから、元はもっと高くてもいいはずです。インフレ格差説はとても有力な説の一つと考えられていますが、こうした個別の検証には耐えられない説のようです。
もうひとつおまけに、購買力平価で計算した各通貨の理論値はどの程度かに関する数値を見つけましたので、それを引用します。これは2010年の理論値なのでちょっと古いですが、実勢レートがかなりかい離していることはたしかのようです。
OECDが発表する2010年における各国通貨の対ドルの購買力平価から計算した理論値。・・・以下の数字は、10年末の実際のレート
•アメリカドル 111.39円/ドル・・・82
•オーストラリアドル 73.64円/豪ドル・・・83
•ユーロ(フランス) 126.45円/ユーロ・・・108
•イギリスポンド 170.97円/ポンド・・・126
•スイスフラン 73.75円/スイスフラン・・・86
円はドルとポンドに対して3割以上過大評価され、ユーロに対しては10数パーセントの過大評価、豪ドルとスイスフランに対しては10%ほど過小評価されていることになります。
こうして見ると、どうも為替レートについては様々な理論が示されてはいますが、決定打はなかなかないようです。
次回はその他のあまり有力とは思えない説について、簡単にコメントしてみます。