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愚かなる為替介入

2024年05月08日 | ニュース・コメント

 為替市場では連休中、4月29日と5月2日にドル円レートが急落し、日本政府・日銀による円買い介入観測が広がっています。財務省ははっきりと介入を認めていませんが、日々日本の資金市場を見ている東京短資などによると、彼らは介入規模の金額推定までしているため、2度とも介入は間違いないようです。

 短資会社は日々日銀の資金ポジションを把握し、全国の金融機関の資金需給を予想して金融市場にカネ詰まりが起っらないようにウヲッチしていますので、政府日銀の資金の動きがよくわかるのです。

 

 では、はたして介入に意味があるのか、それをしっかりと理解しておきましょう。

 まず連休明け5月7日のロイターニュースを引用します。すでに2度の介入を終えた後の財務官へのインタビュー記事です。

引用

神田真人財務官は7日午前、「マーケットが投機などで過度な変動、無秩序な動きがある場合は政府が適切な対応を取る必要がある」と述べ、為替介入も辞さない考えを改めて示した。

そして「一般論としては、為替相場はファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に従って安定的に推移することが好ましく、マーケットがそのように健全に機能していれば、政府が(為替介入など)介在する必要もなく、市場に任せればよい」と述べた。

引用終わり

 相変わらず日本政府・日銀は自分たちの実行している愚かな政策を棚に上げて、オールマイティー幻想を振りかざし、市場を直接介入と口先介入で平伏させようとしています。

 

 彼らが何故愚かなのかを説明します。

 みなさんは車を運転する時、アクセルとブレーキを同時に踏むような愚かなことはしませんよね。それを政府・日銀はまさにやっているから愚かなのです。

 日銀はマイナス金利をゼロに引き上げましたが、そもそもゼロ金利による超緩和政策はそのまま続けています。その目標は「円安により日本産業の輸出力を増して、経済を回復させ、インフレにしようとしている」ためです。つまりアクセルを踏みエンジンを吹かし、円安とインフレにもっていこうとしています。

 ところが財務省は円相場の動きがファンダメンタルズを映していないとして、正反対の為替介入をしている。つまりブレーキを踏んで円安を阻止しようとしています。

 私に言わせていただければ、この介入は為替の投機筋によって読まれているため、彼らを喜ばせているのです。どういうことか。

 

 為替投機は、大きな投機ファンドであろうが個人であろうが、ほとんどの市場参加者は自己資金以上に何倍、何十倍というレバレッジを掛けて巨額の取引をしています。将来のドル高を見てドルを買っている参加者は、儲けるためにいつかはそのドルを売る必要があります。つまり買い一方ではなく、買い持ちのポジションを同額売って解消します。解消しなければ、彼らの儲けはありません。それは個人も同じで、買ったものは売るのです。

 

 大きな買いポジションをつくるために大量買いをすればドルはそれにより上昇しますが、同じ額を売ればその逆で下落します。つまり介入などしなくても、いつかは自然に解消するはずなのです。

 特にレバレッジを大きく掛けるFX取引は、反対売買に期限が設けられているから必ず解消されるのです。

 そうした動きを「ファンダメンタルズにそぐわない」などとして財務省がドル売り介入をする。するとドルが安くなるので、また投機筋は喜んでドルを買い始めるという機会を与えることになります。4月末の介入でドンと下がってしまったドルですが、それが2匹目のドジョウになりまた安いドルを買う機会になってドルが上昇したので、また介入したのです。

 そもそも日本は貿易赤字が常態化しています。その上経常黒字であってもその黒字部分を金利の付かない円などに戻したりせず、そのままだまってドルに置いておけば、MMFであろうが短期国債であろうが、円の数百倍の金利が付くのですから戻すわけはない。そして次のアメリカでの投資機会にドル資金を使用する。それが現在の日本企業の基本行動になっているのです。

 以上はいわゆる資金フロー上の概念でドル円の動きをみています。次はストックとしてのドル円をみておきましょう。これこそが、我々個人にとって重要なことがらです。

 私は著書でもブログでも、「頭の中をドル建てにせよ」と常々申し上げてきました。その理由は、円安とは単に円建金融資産の価値が相対的に下がるだけでなく、ストックである自分の持ち家などの不動産も、将来の賃金収入や退職金、そして年金収入もすべては円建てのため価値を棄損することになる。それを頭の中をドル建てにすることで、しっかりと意識すべきだということです。

 東京都内の新築マンションの平均価格が1億円を超えたと言っているのに、中国人をはじめとするマンション爆買いが続いています。その理由がまさに円安大バーゲンによるものです。

 頭の中がドル建てであれば、不動産を含めて「ヘッジをする必要がある」となります。そのためには預貯金の多くをドル建てにして、少しでも円安をヘッジする必要があります。そして保有するのはドルの現金ではなく、金利が付くドルのMMFや米国債を買っておけば大いなるヘッジになります。

 

 もう一つは、みなさんもひしひしと感じている物価上昇です。それへの対処はどうしたらよいか。世界の商品はすべてドル建てで動いています。非常に大事な石油などのエネルギーをはじめ、原材料となる資源、そして国内でほとんど生産できない輸入食料品などもこのところ値上がりが激しいため、それへの対処をすべきなのです。

 といってもできることは一つ。それはドル資産を所有することです。ドルは対円で増えるだけでなく、金利をもたらすため資産の目減りやインフレへの対処ができます。

 

 ここまでをまとめますと、

・投機はほっておけば戻る

・実需での円安は財務官の言うファンダメンタルズそのものだ。それを介入で戻すのは、自己矛盾

・介入でドル安にすれば、逆に投機筋にチャンスを与えるだけだ

 以上、アクセルとブレーキを同時に踏む「愚かなる為替介入」でした。

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5 コメント

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Unknown (機関投資家の端くれ)
2024-05-13 18:22:55
いつも参考にさせてもらっております。
確かに日本よりは米国への投資の方がいいとは思います。ただ最近米国も「超放漫財政」に向かいつつあると感じております。そういった状況で米国債への投資を続けるのは少々不安なところもありますが、いかがでしょうか。
機関投資家の端くれさんへ (林 敬一)
2024-05-14 16:05:15
コメントをいただき、ありがとうございます。

回答の前に質問があります。

>「超放漫財政」に向かいつつあると感じております。

とありますが、アメリカが超放漫財政に向かっているという根拠は例えばどのような事例でしょうか?
Unknown (機関投資家の端くれ)
2024-05-15 08:15:43
林先生
ご連絡いただきありがとうございます。事例としては、マスコミで報道されておりますが、以下の通りです。
①米議会予算局によると、今会計年度上半期(10月~3月)の財政出総額は前年同期比6%増で、利払い費は過去3年で倍増した。
②IMFがレポートで、米国の過剰支出が世界経済に対する長期的な財政・金融両面で不安定リスクをも引き起こすので、何かを諦めなければならないと言っている。そうしないと、2025年に米国の財政赤字はGDP比で7.1%と先進国平均2%(日本は3%)をはるかに上回ることになる。
③一方今後民主党政権が続く場合でも、トランプ人気を考えるとバラマキから緊縮財政に代わることは考えにくい。ましてやトランプが大統領になったら一期目と同じくバラマキが行われる可能性が大きい。
です。最も実際に投資は理屈通りとはならないことも自身の経験からもいえますが、一方では仕事柄こうした事象に対して関係者への説明義務もありますので、先生のご意見をいただければ幸いです。
機関投資家の端くれさんへ (林 敬一)
2024-05-15 10:41:44
詳しい説明をいただき、ありがとうございます。
①と②はもちろん事実をそのまま述べていますので、そのとおりだと思います。しかし2つはいずれも比較的短期的な事柄です。

私はもう少し長期的な視野で物事を考える必要があると思っています。その理由はもちろん米国債に投資をされるみなさんは20~30年程度の期間を見て投資をしているからです。
米国財政を単独で見てもわかりづらいので、日本との比較をしてみましょう。

1. GDP対比での債務比率
30年前の日本は40%程度でそれが現在は252%と6倍になっています。アメリカは同じく40%でしたが、現在は122%で、約3倍です。

何故GDPとの対比が重要かといいますと、GDPは税収に直結するからです。法人税も個人の所得税・消費税もGDPが増えていることが返済力の増加に直結します。

2. 今後の成長力も潜在成長力は日本の0.5%程度に対してアメリカは1.8%程度と推定されているため、債務の返済能力も大きな差がある。人口の減少している日本と増加しているアメリカの差は拡大する一方。

3. 安全性指標として、食糧とエネルギーの自給できるアメリカに対し、日本は両者ともできない。また自衛戦力の差は言うまでもありません

4. 格付け会社の見立て
彼らは1の債務比率や返済能力、2の潜在成長力などを総合して今後を見通しています。

アメリカAA+
日本A+
G7で日本より低いのはBBBのイタリアのみ。

ということで、将来を展望すると日米の差は拡大の一方であると言えます。

トランプかバイデンかについてはどっちもどっちで有権者にいい顔をしたいので、大きな差はないように思えます。

以上が私の考え方です。
Unknown (機関投資家の端くれ)
2024-05-15 19:29:53
林先生
お忙しいところご意見いただきありがとうございます。個人投資家なので超長期で考えるべきとのこと理解しました。今後ともよろしくお願いします。

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