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江之浦測候所奇譚

2024年04月22日 | アートエッセイ

 春うららの中、小田原にある「江之浦測候所」に行ってきました。

 

 4月初め家内の大学時代からの友人であるアメリカ人女性が息子さんを伴って来日。一週間日本に滞在し、その間ほぼ毎日彼らを夫婦でアテンドしていました。

 東京を案内した後、親子を一泊で箱根に案内したのですが、途中の小田原付近で寄ったのがタイトルにある「江之浦測候所」です。測候所と言えば天気の観測をするところですが、ここは私が大好きな偉大なるアーティストであり、様々な顔を持つ

 杉本博司が海辺の丘に作り上げた広大なるサイトで、現代美術や古代の世界の観察ができます。江之浦測候所入口では、満開のさくらが迎えてくれました。

 杉本博司の名前を知らない方のほうが多いと思いますので、簡単に説明しようと思うのですが、一口ではとても説明できないスケールの大きな人物です。

 

 彼が世間一般に名を知られだしたのは、写真家としてニューヨークで活躍し始めたころです。その後彼のキャリアをキーワードで示しますと、現代美術作家、骨董収集家、建築家、演出家、文化功労者、日本芸術院会員などなど。多芸多才すぎて、ますますわかりまませんので、ウィキペディアの説明文を付けます。

 「杉本は1948年生まれ。1980年代、写真を素材とした現代美術作家としてキャリアをスタートさせ、独自の徹底したコンセプトを立て、飛び抜けて高い技術で写真を芸術の域に高めたことで、美術史にその名が刻まれる作家である。 2000年以降は建築にも活動の領域を広げ、さらに古美術と自作を組み合わせたさまざまな展示によって、新しい境地を切り開いてきた。」と言う具合です。

 

 その上、彼は一流の骨董品収集家でもあり、古美術のコレクションは美術館が開けるほどです。カンブリア紀の三葉虫の化石や空からの隕石まで収集して大事な物は古い倉庫小屋に展示してあります。


 三葉虫の化石の石板の下には黒い隕石があります。そして天井付近には「落石注意」の看板がジョークとして掲げられています。

 我々がアメリカから来た二人を「江之浦測候所」に連れて行った理由は、我々が新しいマンションに引っ越したとき、引っ越し記念にこの友人から送られたのが、杉本博司の名を世界に知らしめた海景写真のシリーズのうちの、「Sea of Japan」の1枚の写真だったからです。

 今回彼女を家に招待した時、玄関に飾られた杉本の「海景」を見て、とても喜んでくれました。「海景」の写真はアートとしての価値を上げ続け、最も大きな作品は海外オークションで30万ドルを超える価格で落札されています。それらと同等の大きな世界各地の海景写真が、江之浦測候所のギャラリー内に何枚も飾られています。うちの玄関の小さな海景写真はもちろんそれとは別物の横幅30㎝程度の小さな写真です。

 江之浦は小田原市内から真鶴方面に海岸沿いに30分ほど行った景勝地にあります。その地を大変気に入った杉本は、そこに壮大なスケールの開発を行い、自身の世界観を具体的サイトとして作り上げています。HPの説明を引用しますと、

 

「江之浦測候所の各施設は、美術品鑑賞の為のギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などから構成される。また財団の各建築物は、我が国の建築様式、及び工法の、各時代の特徴を取り入れてそれを再現し、日本建築史を通観するものとして機能する。よって現在では継承が困難になりつつある伝統工法をここに再現し、将来に伝える使命を、この建築群は有する。」

というように杉本流の小難しい世界観の説明で、何を彼が重視しているかが示されています。HPには杉本自身が建設現場に立って説明をしている動画もあります。

HP; https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

 茶色くさびた橋はその中も歩けるブリッジで、右側には厚いガラス板を組み合わせた舞台があります。私はその舞台を見るための半円形の石作りのスタンドから写真を撮影しました。実は薄くもやった海景こそ、彼の写真シリーズの海景そものでした。冬至には鉄のブリッジの正面から太陽が昇るそうです。

 

 私が毎週見ているNHKの番組に「日曜美術館」があります。この4月から装いを新たにして司会者に坂本美雨を招き、そのお披露目番組が3月末に放映されました。彼女は先ごろ亡くなった坂本龍一の娘で芸術に対する理解が深く、司会役にはうってつけです。お披露目番組で江之浦測候所を訪ね、杉本自身から全体のコンセプトや各展示物の説明を受けていました。私はその番組を見てから初めて訪れたのですが、広大な敷地の中であらかじめ行きたい場所の見当をつけることができました。

 といいながらもせっかくなので実はほぼ全部の場所を回ったというほうが適切かもしれません。杉本を理解する友人親子もしかり。年に一度冬至に太陽が昇る時間にしか見ることができない、まるでストーンヘンジのような仕掛けを持つトンネルの中まで、興味深く観察していました。鉄サビ色のトンネルの入り口から海に向かって写真を撮りました。冬至に日の出を見られる仕掛けです。

 この測候所を見学するにはあらかじめ予約が必要で、かなり広い敷地ではあるものの見学者の人数を制限しています。もともとミカン畑であったためかなりの傾斜地に作られていて、一回りするだけでも2時間ほどの山道ハイキングになります。

 訪れた日はとても天気のよい日で、山道の両側には菜の花畑があり、そこに桜の木がたくさん植わっているため、黄色とピンクのコントラストを楽しむことができました。

 園内唯一の小さな屋外カフェでは、そこで採れたキヨミミカンをベースにしたジュースがあり、三浦半島から真鶴半島までを見通せる海景の中で味わうのは格別でした。園内の竹林はちょうどタケノコのシーズンに当たっていたため、掘り起こした跡がたくさんありました。

 

 杉本博司の世界は瀬戸内海随一のアート・サイトである直島でも見ることができます。ですがアメリカからの旅行客を直島に連れて行くのは難しいため、次の機会に譲ることにしました。直島は3年に一度開かれる「瀬戸内国際芸術祭」のメイン会場のため、その時をとらえてアートに造形の深い彼女を連れて行きたいと思っています。

 

 以上、サイト全体がまさに「奇譚」と呼べる「江之浦測候所」でした。興味のある方は是非一度訪れてみてください。

 

 

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