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アメリカ財政は相次ぐ巨額支出で大丈夫か?

2021年04月03日 | バイデンのアメリカ

   バイデン大統領は就任して最初の大仕事である3月の200兆円にのぼるコロナ対策に加え、今回はインフラを中心にした220兆円の追加支出を提案しています。そしてさらに第三弾も計画中です。いったいこんなに巨額な財政出動を連発させて、アメリカ財政は大丈夫でしょうか。

  長期の米国債投資を考える方には当然気になる大盤振る舞いに見えます。私の結論は、「ぜんぜん大丈夫」ですが、その理由を説明します。まず簡単に上の2つの政策の内容を見てみましょう。

 

 バイデンが「米国救済計画American Rescue Plan」と名付けた最初の計画は主に家計や低所得者・中間所得層をターゲットにした政策で、それにワクチン普及費用や中小企業の支援、失業保険の拡充延長、州・自治体への支援金などを含めたものです。

 

American Rescue Planの主なポイント

・高額所得者を除き、一人あたり1,400ドルの現金給付、42兆円

・失業者の通常給付額に追加で300ドル給付、26兆円

・コロナ対策、ワクチンや検査に7兆円

・中小企業対策に52兆円

・州など地方政府に37兆円

 

  そして今週になりバイデン大統領は第2弾となる「アメリカ再強化計画American Job Plan」を発表しました。これは競争力強化のためのインフラ投資を中心としています。この強化策は8年の間に支出されますので単純平均では年に27.5兆円です。

  この計画の重要な点は、支出には見合いの増税が組み合わさっていることです。従って財政的には中立的に作用するのですが、増税期間は15年と支出の8年の約2倍の長さになっているため、その間は赤字の要因になります。

 

  追加の220兆円ですが、中身はアメリカの競争力アップのために重要なものが多く、日本的赤字垂れ流しの財政支出ではありません。中身を示しますと、

American Job Plan

・大容量通信インフラ整備、70兆円

・EV化を中心に交通インフラ近代化、65兆円

・製造業の基盤強化、サプライチェーン強化、45兆円

・水道・電力網整備、80兆円 自然エネルギーに対する税の優遇措置付

・高齢者と障害者支援、45兆円

上から4つの項目はいずれも将来の競争力強化として非常に重要で、今後台頭する中国に負けないためには必須のポイントとして大いに評価できるものです。なお、世界のかく乱要因となっている中国に関しては、次回以降じっくりと私の見方をお知らせします。

 

そしてこれらの支出を支えるための増税案は、

・トランプが減税した連邦法人税を21%から28%に戻す

・税逃れとして批判の多い巨大多国籍企業の海外での収益に21%を課税

 

  この増税は一見競争力を削ぐように思われますが、行き過ぎた世界的減税競争に歯止めをかけることとして評価できると私は考えます。インフラ支出により競争力が改善すれば、それが税収のさらなる増加となって米国債の信頼性にも寄与することにつながります。またイギリスも先月、19%だった法人税を来年4月から25%に増税することを決めました。これは50年ぶりの増税だそうで、世界の減税競争による消耗戦は収まりつつあると思われます。

 

  ここまでバイデンによる第一弾の200兆円の支出案と第二弾の220兆円の支出案の中身を吟味してきました。第二弾はこれから国会で審議されることになり、修正の可能性はありますが、就任からわずか3か月弱でこれだけの大胆なプランを提示する大統領の行動は敬意に値するものです。

  そして上記の支出計画に対する市場の評価を見てみますと、これだけ大胆な計画を出しているにもかかわらず、米国債の長期金利は就任時の1%ちょうど近辺から、一時1.74%まで上昇したものの、直近は1.6%台に低下し心配するレベルではありません。

  この金利上昇の原因は財政支出計画によるものではなく、むしろ最近のインフレ率の上昇傾向によるものと解釈されています。その間、FRBも長期金利の市場には介入していません。日銀による官製相場とは大違いです。つまり市場も私と同じく将来の競争力アップを積極的に評価し、長期ではアメリカ経済に楽観的であり、財政に大きな問題は出ないと見て取れます。

  3月2日の記事で私は「この長期金利の高騰を見て私が抱いたことは、「アメリカは健全だな」ということです。」と書きましたが、このところの金融市場の動きを見ればそれがまさしく当たっていたと思われるのです。

  今後バイデン政権はさらに第三弾の計画を発表する予定ですので、それが出そろったときにまた評価することにしましょう。

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6 コメント

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Unknown (Genrecht)
2021-04-04 08:05:16
林先生

お久しぶりです、Genrechtです。先月の「今は米国債は買い時か」に関して、Noと書かれていたことについて、僕は100%同感です。

ここ数年出版された投資系の本では、債券について言及されているものは、ほぼ「ETFで買うべき」「ポートフォリオの一部のバランサーとしてAGG, BNDなどの総合債券を推奨」という意見が支配的です。

去年あたりから人気が出ているユーチューバーの高橋ダンという方が、この3月あたりに債券は割安、長期を目指して今買うべき (特にTLTなど) と吹聴しています。理由は、RSIという指標で売られすぎているからというものです。

短期的に過小評価されていて、今後も何十年も米国金利が下げ止まっているならば分からないこともないですが、金利が2%を切っているのに週足RSI程度の短期指標を目安に今大きく突っ込むのはないわ〜と、個人的に思います。僕はあまり本気にしませんが、この人は外国株投資家に人気で、怪しいバンドワゴン効果が表出するかもしれません。

さて、TLT (米国債20年長のETF) は、この林先生のブログで何度か既出です。

個人的には、10年債の金利が2%〜3%なら生債券で買い、金利が3%を超えたらTLT, VGLT, EDVなどの超長期の米国債ETFもありかなと愚考しておりますが、ポートフォリオの90%〜100%を米国債で持つことを推奨されている林先生はどうお考えでしょうか?
返信する
Genrechtさんへ (林 敬一)
2021-04-05 15:30:19
お久しぶりです。私のブログを継続してお読みいただき、ありがとうございます。

高橋ダンさんのことは聞いたことがないのでよくわかりません。

すくなくともGenrechtさんご指摘通り、金利が低い時に債券であろうが債券投信であろうが薦めてくるのは理解できません。低金利=高価格ですので。

それと、Genrechtさんのおっしゃる以下の点についてですが、

>個人的には、10年債の金利が2%〜3%なら生債券で買い、金利が3%を超えたらTLT, VGLT, EDVなどの超長期の米国債ETFもありかなと愚考しております

これに関してですが、金利が3%を超えたら何故債券を買わないのでしょうか?
私なら本腰を入れ始めますが。キャピタルゲイン狙いですか?それでも債券そのものでよいと思いますが。

いつも申し上げているとおり、投信は価格が常に変動し、終わりの時期と価格が決まっているものでもないので、買いのタイミングと売りのタイミングを間違いなく実行できる方だけが投資すべきものだと思っています。

私はそのような自信がないので、投資しません。
 
返信する
Unknown (Genrecht)
2021-04-06 00:20:17
林先生

ありがとうございます。

米国債を買うなら、償還される生債券が良いことは承知の上での質問でした。先生のおっしゃられる通り、金利が上がれば上がるほど生債券を本腰を入れて買うべきと思います。

それでもETFで買いたい人がいて、もし買うとしたらどうするかという、しょうもない発想でした。
それと、米国債以外の債券を買いたい人 (色々混ざった総合債券ETFや社債ETF) を買う考え方をごっちゃにしておりました。下記の蛇足3の思考もあります。

僕は林先生の本を読んでから数年間、色んな年限で税金を含めて何度もシミュレーションし、生債券の優位性を確認しています。
★★★なので、運良く僕のこの書き込みをみた人は、米国債をETFで買うのをやめて、安心して生債券を買っていただきたいです。★★★

個人では米国債を償還まで持ち続ける→ロールオーバーする方が有利なのに、ユーチューバーが米国債のETFを勧める本質的な理由はないはずです。不思議ですね。機関投資家的な考え方をしているのかもしれません。

米国債のETFを敢えてすすめる理由は以下、考えられます。

A. 生債券はスプレッドが大きい
日本国内大手での、生債券の往復数% (5%以上のこともあり) のスプレッドが大きいと思われているのか?

B. 途中で売買
何故売ったり買ったりかといえば、リスク資産との組み合わせ戦略として、リバランスをするためですね (スプレッドが大きいため?)。それと、損益通算ですが本質的な使い方ではないです。
何故リスク資産を持つかと言えば、無リスク資産よりも当然期待リターンが高い (と信じる) からですが、両者を合わせて持つとリスクが下がるという現代ポートフォリオ理論からですね。

C. 純粋に、生債券の方が良いのを知らない

D. もしかして、その方がフィーが入る?


★★★蛇足1:
ここ数年前よりSBI証券で米国債の扱いが増えましたが、N證券、D証券、SMBCN証券、M菱なんとか証券よりもスプレッドが大きいです。
ただ、100ドル単位で買えるため、小口で買いたい人はもしかしたら使えるかもしれません。

スプレッドのきわめて低い米国の証券会社で米国債のナマ債券を買うのが最も合理的と思いますが、僕はそこには目をつぶっています。

蛇足2:
ここ数年、債券の時代はもう終わった!などというアナリストの意見が多く、色々な意味で残念な思いをしています。債券のリターンが低すぎるから、株式の比率を上げなさいという意見が支配的です。
バートン・マルキール著 「ウォール街のランダムウォーカー」においても、債券を優良配当株で代替する案を平気で書いています。これは嘆かわしいと思います。米国の株価はどんどん割高 (PERもバフェット指数も) になっており異常です。
異常ですが、それでも、米国株の方が米国債よりリターンが高いと、大多数の人が将来に渡って信じ続けるのでしょうか?
ウォーレンバフェット自身もS&P500指数に連動するファンドに投資し続けることを薦めています。

蛇足3
米国が緩和をやめても、長期金利はもう昔のように金利7%や10%には戻りっこないのではないかと思っています。あと、イールドカーブが寝過ぎています。これのせいで超長期債が買えません。買うとしても10年ですね。
3%に戻るのがいつかわかりませんが、3%にすら戻らない世の中になったらどうしようかと思うので、超長期米国債を買う待機資金をMMFや満期まで数年の米国債で握りしめるのも苦痛ですね。

僕の意見を残しておきたいと思いました。ご笑納ください。
返信する
Unknown (Genrecht)
2021-04-06 02:03:55
このブログを読む方へのまとめ:

1) 米国債は、ETFで買わず、大手証券会社の米国債の取り扱いの多いところで買う。スプレッド(売買の価格差)が高くても結局有利。
(過去、TLTというETFがこのブログで話題に出たことがある)

2) 米国債は値動きチャートで見ない。相場を読まない。
金利で見る。

3) 自分のリスク許容度を、とことん突き詰める。あなたはどこまでリスクを取りたいか?

4) 大部分の投資の本、YouTubeや個人ブログなど、無駄に見ない。
少なくとも、テクニカル分析 (チャート分析のこと) はどの資産においても有害。
FXなどのゼロサムゲームに手を出さない。

「投資の教科書」と謳う本でテクニカル分析を大真面目に勧める、人気上位ブログでレバレッジファンドを勧めるなど、カオス状態です。
(僕は分かった上で、新しく出版される投資本を片端から暇つぶしで立ち読みしてしまうアホです。たまには掘り出し物がある)

1個前の投稿はまとまりのない内容で申し訳ありませんでした。



林先生

僕は、TLTを機関投資家も買っているのは何故だろう?この人、現金とS&P500のレバレッジETFで半々で持っているよアホだな〜など、無駄なことを考えているので、アホなのかもしれません。

また、割高でかつ異常と知りつつも、コロナショックも乗り越え平然として今日まで米国株・米国REITを握りしめているので、アホ具合が増しているのかもしれません (米国債にも片足突っ込んでいるからかも)。我ながらリスクテイカーですね。
でも、ちゃんと米国債も買います。
返信する
各証券会社の米国債利回り (目白のおっちょこちょい)
2021-04-06 10:03:11
ご無沙汰をしております。
Genrechtさんが書かれている各証券会社のスプレッドですが、4/5~4/6現在で各HPに掲載されている取扱銘柄一覧の米国債利回り(税引前)で比較すると銘柄によって各社善し悪しがあり、平均するとどこも似たり寄ったりかと思います。
米国債取り扱い会社が増えたことは喜ばしいですね。
私は以下の三社に口座を持っていますので、適宜使い分けて購入する予定です。ご参考まで。

・2030/5/15 (残存9年)
大和 1.449%
三菱 1.517%
SBI 1.531%

・2040/2/15 (残存19年)
大和 2.082%
三菱 2.099%
SBI 2.046%

・2049/2/15 (残存 28年)
大和 2.187%
三菱 2.201%
SBI 2.19%
返信する
Unknown (Genrecht)
2021-04-06 15:07:27
目白のおっちょこちょいさん

情報提供ありがとうごさいます。

各証券会社のHP情報では、同じ年限で買値に差があるのが読み取れます。
買ってからでないと売値が参照できなかったパターンが多いと思いますが、僕の経験では、客の買値には証券会社ごとに差があり、売値にはほとんど差がなかったと思います。

僕が熱心に見ていた5年ほど前までの期間 (失礼) では、同じ国債では野村が高く→大和→三菱の順でが客の買値が安くなる (利回りが高くなる) 傾向がありました。もしかしたら今は傾向が違うかもしれません。
また、利付債とゼロクーポン債では違うかもしれません。

いずれにせよ、年率に直せば僅かな差と思います。
また、口座管理料が年間でかかるところとかからないところがあります。
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