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トランプフリーのG7とアメリカの国内政治事情

2021年06月17日 | バイデンのアメリカ

  なんと平和なG7サミットだったでしょうか。

  世界の民主主義国のリーダーが民主主義や人権を守ることで一致団結して独裁的覇権主義に対峙する、まともなG7が帰ってきました。自分の思うがままにならないと会議の途中で勝手に帰国したり、共同声明を出せなくしたりというお邪魔虫がいなくなると、G7は見事に団結できますね。

  トランプは、「すべては個別ディールだ」ということで、せっかく合意できたTPPやパリ協定から離脱。協調関係を破壊することが、あたかも独自外交による勝利だと主張する愚を犯し続け、一部のアメリカ人がそれを支持し続けました。個別ディールなどロシアや中国を喜ばせるだけです。

  G7がノーマルに戻ったおかげで世界の途上国へ10億回分ものワクチンを贈与する案もスムーズに決まりました。そして覇権主義の中国に対峙すべく、途上国のインフラ整備を支援し、一帯一路という名の世界制覇に対抗する方向性が確認されました。トランプによる4年間の停滞はありましたが、遅れを取り戻すことはできると思います。

  こうしたG7の成果の深堀や評価は報道に譲り、いなくなったはずのトランプの動向をアップデートします。

 

  アメリカ国内では依然としてトランプが共和党に対して大きな影響力を保持しています。SNSという唯一無二の発言手段を奪われた彼は、自分のブログを立ち上げ対抗しようとしましたがアクセス数は全く伸びず、わずかひと月で閉鎖。今はメルマガだけで細々と発信するのみとなっています。

  トランプのツイート回数は大統領就任期間中約3万回。ウソの回数は1万数千回。群を抜くウソツキ大統領でした。それがゼロになることのインパクトは計り知れません。「去る者日々にうとし」を地で行っています。

  にも拘わらず共和党内ではトランプが大きな影響力を保っています。例えば共和党の下院議員でナンバー3の地位にいて、反トランプの姿勢を鮮明にしていたリズ・チェイニー氏を共和党は解任しました。彼女はトランプの弾劾裁判で弾劾賛成に回った実にまともな7人のうちの一人でした。その彼女を党が排除することはトランプの影響力を承認したことになります。

  また次の中間選挙の議員立候補予定者でトランプが気に入らない候補がいると彼は徹底的に非難を浴びせ、候補者から引きずりおろしています。共和党議員はそれを恐れてトランプに盾突けないのです。なんという体たらくでしょう。気骨ある候補者はトランプ離れを公言し始めていますが、まだ少数派です。

  そしてこのところ時折開く共和党の政治集会で演壇に立ったトランプは、相変わらず大統領選での敗北を認めず、「不正が行われた」という主張を繰り返しています。そうした愚にもつかないトランプの主張をどれくらいの共和党支持者が支持しているかともうしますと、共和党支持者のトランプ支持率は8割近くあります。しかし次の選挙でトランプが返り咲くと予想する共和党支持者はわずか3割程度しかいません。大きなギャップがあります。トランプの将来は閉ざされつつあるのに、中間選挙での影響力は保っているという妙なバランス状態にあるのが共和党内部です。

 

  私に言わせれば、このままトランプを旗頭とした共和党が22年の中間選挙と24年の大統領選挙に臨めば、かなり民主党有利になるはずです。なぜなら前回の大統領選と同時に行われた上下両院選挙の結果は、トランプにノーを突き付けました。その上1月の議会占拠と殺りく事件を経て、ますますトランプには不利になっています。その失地を回復するにはトランプが共和党内だけではなく、国民全体から広く支持される必要があります。SNSという手足をもがれたトランプにそれができるとは思えません。

 

  そこで共和党が繰り出しているあくどい手段が選挙制度の改悪です。前回の大統領選では投票率が100年ぶりと言われるほど上がったのですが、その要因はコロナ禍での期限前投票・郵便投票が多かったお蔭と評価されています。アメリカではそれぞれの州が選挙制度を決めています。そこで共和党知事のいる州で、選挙人登録をやりにくくしたり、期限前投票期間を短くしたり、前回同様投票を投函できる郵便箱を少なくしたりする姑息な手段をさらに実行しつつあります。政治評論家は押しなべて制度の改悪を非難し、民主主義への冒涜だとしています。

 

  では最後に現職のバイデン大統領をチェックしましょう。彼はG7サミットをしっかりとリードし、世界の民主主義のリーダーとしてアメリカが戻ってきたことを大きくアピール。6カ国とEU国はそれを大歓迎しました。

  そして国内の支持率も落とすことなくここに至っています。5月18日から6月10日までに行われた各種世論調査の平均でも、バイデン支持54%、不支持41%でその差13ポイント。1月の大統領就任後100日間の議会とのハネムーンが終わった3月時点と同じレベルの支持を現在も維持しています。トランプが一度も50%を上回ったことがないのとは大違いです。バイデンへの支持はコロナ対策や中国への強い姿勢、そして長期でアメリカの競争力を回復させるための施策などが評価されているためです。今回のG7、NATO、プーチン会談でも失点はなく、むしろ加点対象が多かったというのがアメリカ国内の論調です。

 

  では候補者個人ではなく党派別の支持率はどうなっているのでしょうか。世論調査の老舗ギャラップ社は長期間同じ調査を実施していますが、5月の調査では共和党29%対民主党33%、一方独立派は35%です。こうした3分割の支持率傾向はこの数年、大きな変化はありません。民主・共和両党にとって選挙戦の焦点は、いつもこの多数派である中間派の取り込みです。トランプ個人の極端な政治主張や過去の税金不払い、3千件の訴訟などをそのままにして彼を大統領候補にいただくなら、共和党とトランプの負けは見えています。

  バイデンは大きな失政なくここまで5か月を無難に乗り越えているため、アメリカの政治評論家はバイデンと民主党有利の情勢は変化なしと見ていますが、私もアメリカでこのままコロナが収束に向かい、経済も世界に先駆けて回復していけば、バイデンと民主党の勝利が見えてくるに違いないと予想します。

 

  トランプよ、もっともっとガンバレ!

それが共和党トランプ派とおのれの自滅への道だ!

何度も申し上げますが、私は民主党支持者ではありません。ただのトランプ嫌いです(笑)

林 敬一

 

 

 

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