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FRBの豹変、アメリカ金利のゆくえ

2021年06月22日 | アメリカの金融市場

  先週のNY市場の株価は5日連続で下落し、最後の金曜日が533ドル安。一週間の下落幅は1,200ドルと結構な下げ幅だったのですが、その原因の一つは木曜日のFOMC(連銀の公開市場委員会)の結果、FRBがこれまでの緩和維持の政策を豹変させたことにあります。それはいままでFRB議長などが一言も触れなかったテーパリング(緩和縮小)について言及したことです。

 

  5月25日の投稿で私は「予測の神様のご託宣」という記事をアップしました。その内容は、金利予測で名を馳せたヘンリー・カウフマン氏が、「FRBは23年まで金利を上げないと言うが、もっとずっと早く利上げに踏み切るだろう。今年の年末から来年にかけてだ。テーパリングも今年後半には開始するだろう。」というものでした。このご託宣は今回のFRBの緩和策縮小の示唆開始により、見事的中したと言えるでしょう。もちろんFRB政策の本命は利上げですが、緩和縮小はその一歩とみなされ、翌日の株式相場がそれまでの下げに加えて大幅に下落したのです。

 

  私はバーナンキ現FRB議長のことを、「あつものに懲りてなますを吹いている」と批判しましたが、すくなくともこれでなますは吹かなくなったと思われます。

 

  では今後の利上げが神様のお告げ通りに今年の年末から来年にかけて行われたとしますと、はたして長期金利はどうなるでしょうか。

  ちょっと解説します。「FRBによる利上げ」とは短期金利、それも超短期の翌日物金利の利上げを指します。これはどの中央銀行も同じで、中銀はオーバーナイト金利と呼ばれる超短期金利はほぼ自由に操作できます。しかし短期でも3か月以上になると公開市場で債券を売買し金利を操作する必要があるため、債券需給に左右されて自由には動かせません。ましてや価格変動幅が大きくなる長期金利の代表である10年物金利となると、市場規模が大きいため実勢にまかせることになります。もちろんコロナショックやそれ以前のリーマンショックのような時は例外的に長期を含む債券を猛烈な勢いで買いまくり、金利を低下させることは例外的にあります。

 

  では今回のように逆に緩和措置を停止し、つまり市場からの債券買い上げを縮小しながらむしろ引き締める方向に転換する場合、長期金利までむりやり上げる市場操作をするでしょうしょうか。景気を急激に冷やしかねない長期金利の高め誘導はしません。市場実勢に任せるのが通常のやり方です。従って、たとえFRBが短期金利の利上げに踏み切ったとしても、長期金利への波及は大きくない場合もありえるのです。米国債に投資しようと待ち構える方にとって即朗報につながるとはかぎりません。

 

  現在アメリカの物価がかなり上昇しています。5月の総合物価指数は前年比5%という驚くべき数字で、食糧・エネルギーを除くコア指数でも3.8%という異常に高い伸び率でした。しかし長期金利は上昇していません。市場のアナリストは、前年の物価の異常な低さが今年の伸びにつながったもので、ベースのトレンドはさほど高くないと見ています。その見方が、物価高=金利高につながらない理由の一つになっていると思われます。今後物価が落ち着きを取り戻すと、長期金利は大きく上昇するのは難しいかもしれません。

 

  以上、FRBの豹変と長期金利の見通しでした。

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