ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アベクロだけでなく、クロブタに注目!

2013年07月12日 | 2013年からの資産運用
  NYの株式市場が史上最高値を更新しました。そして日本の株式市場もやっと落ち着きを取り戻したように思われます。例のアベチャン指数を見ておきましょう。

          11月13日    4月3日        5月22日     6月14日    7月11日
日経平均  8,661円     12,362(43%)    15,627(80%)    12,445(44%)    14,506(67%)  
円レート    79円       93 (18%)        103 (30%)     94 (19%)       99 (25%)


  私の旅行前の水準から本日まで円ドルレートは5円の円安、それに連動して株価は16%ほど戻しました。カップリングは続いていますね。この間、誰が買って誰が売っているか。しっかりと見ておきましょう。とても面白ことが生じています。

  昨年11月のアベちゃん宣言以来5月23日の暴落まで、ほとんど一貫して外人が買い個人が売っていました。暴落以降「あー、やっちゃいましたね」と私が書いたように買いに転じたのですが、それはほんの束の間でした。私の留守中及び先週末までの3週間の投資家別売買動向では、再び外人が8,938億円も買い、個人がほとんどその分の8,685億円を売り越しています。私に言わせれば、「これでホットひと安心」です。

  ニュースでは相変わらず「ボーナスを手にした個人が取引口座を新規に開設し、アベノミクスに乗じて株を買っている」ことになっています。そりゃ買う人もいるでしょうが、差し引き合計は全く逆です。ここまで10兆円も買ったのに動きが鈍ってしまった株を、外人のみがあきらめきれずに買い続けているのです。

  よかったですね。個人は証券会社にもマケズ、アベノミクスにもマケズ、昨年11月以来ただひたすら売っています(笑)。

  〇けい新聞などは株とともに生きている新聞なので(笑)、こうした都合の悪い記事は少なくとも目立っては書きません。書かなければウソをついたことにならないので、黙殺するのでしょう。このブログの筆者は何のしがらみもない正義の味方なので(笑)、読者のみなさんが道をあやまらないよう、「不都合な真実」こそをしっかりと書いていきます。


  さて、今日の話題は日銀のクロちゃんについてです。

  昨日日銀は金融経済月報で景気の現状について「持ち直している」とし前月の「持ち直しつつある」から判断を引き上げています。久々に明るい笑顔のクロちゃんを見ました。よかった、よかった、のですが・・・はたしてこれはクロちゃん効果でしょうか?

  クロちゃんは4月初めの就任以来、「異次元の金融緩和」によりデフレを克服すると謳いあげ、そのための強烈な資金供給を行っています。国債をめちゃくちゃ買い上げ、日銀のバランスシートを膨らませ、マネタリー・ベースを増やしました。それがどれくらい増えたかといいますと、3月末の138兆円が3カ月後の6月末には173兆円と35兆円も増やしました。それが果たして我々の手元に回ってきているのかが問題です。

  市中に出回るオカネの量はマネー・ストックと言います。3月末に1,141兆円だったものが1,158兆円と17兆円増加しました。

えっ?日銀は資金を35兆円も増加させたのに、市中に回ったのは17兆円?誰が食べちゃったの?
答えは日銀です。以前も説明したように、金融機関は国債を売ったオカネを日銀にある自分の当座預金に、ひたすら「ブタ積み」しているだけなのです。

じゃ、本来ならいくら市中のオカネが増えるべきかといいますと、次のように計算できます。

日銀のマネタリー・ベースが138兆円のとき、
市中のオカネのマネー・ストックは1,141兆円だった。
ということは、その倍率は

     1,141 ÷ 138 = 8.3倍

それを適用すれば、市中に増えるはずのオカネの量は日銀が35兆円増やしたので

     35兆円 X 8.3 = 290兆円  増えるハズ

なのにたったの17兆円しか増えていないのです。

  経済が「持ち直している」のはご同慶の至りなのですが、それが日銀のお蔭さまでないことは明らかです。

  いつだったか、読者のどなたかとこのブログ上で岩田規久男の「デフレ克服論」について議論しました。どなたかだったか、記憶が鮮明でなく申し訳ないのですが、議論はこうでした。

〇〇さんコメント
岩田規久男の著書で、日本のデフレの原因が日銀の政策の間違いであることがよく理解できました。

はやし
岩田氏の議論は単に「気合いダ、気合いダ、気合いダ」と言っているだけです。

〇〇さん
いいえ、気合いでなく理路整然と説明されています。

はやし
彼の著書のどこを見ても資金がどう市中に回っていくかの説明はなく、「総裁と理事を入れ替えろ」としか書いてありません。それを私は「気合いダ」と言っているのです。

  以上のような議論をしました。覚えていらっしゃる方もおられるでしょう。そしてなんと当のご本人がクロちゃんと一緒に理事にご就任されています。就任後も依然としてクロイワコンビから、資金循環の合理的説明はありません。
   
  日銀の供給量以下しか市中のオカネが増えないという「不都合な真実」は、7月9日に日銀から6月までの統計が発表されたのですが、また報道からは忽然と消えてしまっているようで、少なくとも私の眼にはとまりません。

  実はこのブタ積み、簡単に見逃すわけにはいきません。何故なら、今の世界のあらゆる市場はFRBの資金供給のさじ加減で動いているのですから。今後はアベクロコンビだけでなく、「クロブタちゃん」の動きもしっかりと見ておく必要があります。

  あー、どーやらやっと時差ぼけから抜け出すことができたようです(笑)
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8 コメント

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「デフレ克服論」 (雪風ファンド)
2013-07-12 20:30:59
岩田規久男氏は自らの不明を
謝っちゃったみたいですね。

http://thegoalnext.blog.fc2.com/blog-entry-997.html

ただ、氏が副総裁に就くという
ことのアナウンスメント効果は、
実際にあったのでしょうね。
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Unknown (雪風ファンド)
2013-07-12 20:32:53
話は変わりますが、三井物産のポートフォリオは資源権益を核としてインフラや生活産業関連の資産まで幅広く分散されています。

直近の有報によれば同社の長期性資産(≒固定資産)の80.4%は海外モノですから、外国株に近い性格を持っていると言えます。

というわけで、次著は是非これで(笑)

『海外投資がしたければ三井物産を買え!』

まぁ、三井物産の場合、最大の問題点は業績に関して新興国景気の影響が甚大な資産構成になっていることでしょうね。
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雪風ファンドさんへ (林 敬一)
2013-07-13 13:46:09
>岩田規久男氏は自らの不明を謝っちゃったみたいですね。

この証左として、どなたかのブログを示されていますが、チョー疑り深い(笑)私は、どなたかのブログだけで信用するわけにはいきません。

ブログの内容の出所、もしくは発言ニュース・ソースそのものをご存知でしたら教えてください。

副総裁ともあろう方が、簡単に自説を曲げて謝るとは思えませんので、確認したいのです。

返信する
雪風ファンドさんの三井物産投資 (林 敬一)
2013-07-13 13:55:08
雪風ファンドさんの発想、いつも面白く拝見しています。

三井物産ですか、なるほど。

日本の総合商社は、内容的には投資ファンドに近いものがありますので、面白い投資対象ですね。

と言ってもトラック・レコードに不安があり、投資はしかねます。物産は資源で過去に手ひどい痛手をこうむり、長期間に渡り深く静かに潜航せざるをえませんでした。

今後も様々な政治的・地政学的リスクを負う投資会社ですから、さぞかしストレスフルな投資になるでしょうね(笑)


返信する
Unknown (雪風ファンド)
2013-07-14 10:03:06
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE95N01G20130624?sp=true

ブログの方はロイターのインタビュー記事の最後の箇所を指していますが、これですと謝ったというのは拡大解釈かも知れませんね。

三井物産は確かにストレスフリーとは全く違いますね。

ただ、例えば米国債にしても、今このタイミングで30年債を買うというのは長期のパフォーマンスに悪影響を及ぼすと思うんです。

インフレ、デフレ、それぞれの局面で悪くない結果をもたらしてくれる投資商品は異なるわけですから、それなりの長期実績のある特性の違うものを織り交ぜて、あとはふんぞり返っているというのがストレスフリーの最終形のようにも感じます。
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雪風ファンドさんへ (林 敬一)
2013-07-15 11:56:01
ロイターの記事を見てみました。

このブログの方の解釈はひどい捻じ曲げ方ですね。

岩田氏のもともとの粗筋は正反対で、降参などまったくしていないのに、最後の言葉尻だけを捉えていますね。


>ただ、例えば米国債にしても、今このタイミングで30年債を買うというのは長期のパフォーマンスに悪影響を及ぼすと思うんです。

雪風さんの米国債ももちろん全幅の信用などしない,
という考え方は、投資家にとって大事なことだと思います。

この議論はまた別途ゆっくりとすることにしましょう。
返信する
Unknown (tanaka)
2013-07-20 17:34:59
日銀のマネタリー・ベースが138兆円のとき、 市中のオカネのマネー・ストックは1,141兆円だった。ということは、その倍率は
     1,141 ÷ 138 = 8.3倍
それを適用すれば、市中に増えるはずのオカネの量は日銀が35兆円増やしたので
     35兆円 X 8.3 = 290兆円  増えるハズ


ほんとにそんなに単純なものですか?逓増が一般的なのでは。その時の経済状況にもよるだろうし。ちょっと理論が雑過ぎはしませんか?
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tanakaさんへ (林 敬一)
2013-07-20 21:21:26
コメント、ありがとうございます。

もちろん単純化しています。

この倍率は金融理論では「貨幣乗数」として知られています。厳密にはハイパワードマネーという用語を使って説明しますが、難しい用語を避ける意味で単純化して倍率と言っています。

通常この乗数は、ハイパワードマネーが増えると、逓増でななく、「逓減」します。何年か前は10倍を超えていたものが現状は8.3倍で、逓減しています。例えば8.3倍より減らして8倍でも7.9倍でもいいのですが、何故7.9なのかの説明はできません。ですので単純化のため現状の倍率を使用したものです。

大事なことは倍率が逓減したとしても少なくとも何倍かにはなるものが、1倍を割り込んでいる、つまり日銀の思惑とは全く違うことを指摘しています。

これでご理解いただけますでしょうか。
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