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イアン・ブレマー氏の「10大リスク」発表

2023年01月04日 | ロシアのウクライナ侵攻

  みなさん、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

  昨年末私は自分のブログで年末最後の投稿をしたつもりですが、それがアップされていないことを今になって気が付きました。年末の忙しさで操作を間違えたのか、あるいは歳のせいで注意力が散漫になったのでしょう(笑)。未投稿のままブログの編集サイトに残っていました。申し訳ありません。

 

  そこで今年の最初の投稿はまずそれを投稿するとにします。

 

12月31日付

タイトル;慧眼、イアン・ブレマー氏の22年10大リスク

 今年の漢字に「戦」が選ばれ、平和な世界からは程遠い1年でしたね。遠い地域でのウクライナ戦争から日本は無縁と思われましたが、とんでもない。ロシアの侵攻以前から始まっていた石油などの資源エネルギーや穀物をはじめとする商品相場の上昇が侵攻により暴騰し、日本も多大な影響を受けました。物価上昇により平穏とはとても言えない日常を経験することになりました。コロナの爆発的蔓延も含め、世界の繋がりの緊密さは驚くほどです。

テレビや新聞で今年の10大ニュースについて論じられる時期になりました。ニュースへの反応は個人個人の感じ方に差があると思いますし、それは報道にお任せします。

私は自分で感じた今年最大のニュースを取り上げます。それはまぎれもなくロシアによる独立国家ウクライナへの侵攻でした。第2次大戦後、先進巨大国家による唯一かつ最悪のあからさまな侵略だからです。マイナーな侵略や紛争は数多く起こっていますが、それらは長く歴史上に残るほどの戦争ではありません。ウクライナ侵略は今後の展開によっては核兵器を使う可能性すら意識せざるを得ないほどの重大かつ許されない侵略です。それを侵攻前からしっかりと予想していた人がいます。イアン・ブレマー氏です。

 

 毎年1月初旬にイアン・ブレマー氏率いるユーラシアグループが「世界の10大リスク」を発表しています。今年はその中にロシアによるウクライナ侵攻が入っていました。非常に的確な予想でしたので、日本語版発表資料をちょっと長いですが以下にそのまま引用します。侵略の可能性や今後の展開に関する示唆も含まれ、さすが地政学上のリスクの第一人者とうならざるを得ない分析です。

 

引用

リスク No. 5 ロシア

米国とロシアの関係は極めてギリギリの不安定な状態にある。昨年、ウクライナ周辺での段階的な軍備増強として始まった動きは、今や欧州の安全保障構造を再構築するというロシアのより大きな要求へと変化している。これに選挙妨害やサイバー工作の懸念が加わり、ロシアは国際的な危機を引き起こす寸前である。

プーチン大統領は、NATO の東方拡大に反対するロシアの意向に対応するよう欧米に強要している。ウクライナとの協定のあり方、ロシアと西側諸国との関係におけるゲームのルールという2つの問題で影響力を得るために、ウクライナとの国境に約 8 万人の軍隊を集結させたのである。プーチンは自分の信用を賭けている。もし米国主導の西側諸国から譲歩を得られないなら、ウクライナで何らかの軍事作戦を行うか、他の場所で劇的な行動を起こす可能性がある。 妥協が可能な分野に焦点を当てれば、外交によって軍事的な対立を回避することはできるだろう。ウクライナが NATOに加盟する見込みはないが、米国と NATO同盟国はそれを公言するつもりもないだろう。しかし、双方はその旨の暗黙の了解に達する可能性がある。また、ウクライナへの武器供与の制限やロシア国境付近での軍事演習など、他の問題についても合意は可能だろう。しかし、まだ予断を許さない状況だ。

上記のような問題が合意されたとしても、プーチンを満足させるには十分ではないかもしれない。プーチンがウクライナに直接侵攻すれ ば、少なくともロシア国債の流通市場における米国民取引の禁止にロシアは直面し、 NATO軍は前線基地をロシア国境に近づけ、ソ連崩壊以来の緊張を高める事態になるだろう。プーチンには、そこまで大規模ではないにしても、欧米の同盟に大きな問題をもたらす別の選択肢もある。

ウクライナがドンバス地域でロシア系民族に対する大量虐殺を行っているという(虚偽の)主張に自ら対応して、プーチンは占領地に軍隊を送り込み、その軍隊を守るために占領地を正式に併合し、ついでにウクライナ領土内に小さな緩衝地帯を追加で奪う可能性もある。

このようなシナリオの場合、欧州諸国はその結果生じる あらゆる経済的影響(そしてこの冬のエネルギー不足)を考慮した上でも、米国との同盟関係を維持するだろうか。欧州との連携が成立しなければ、この出来事はバイデン政権にとって恥ずべき失敗となり、米欧関係に深い溝を作ることになるだろう。

引用終わり

 

さすが第一人者、侵略の開始やその後の展開に関する予想までぴったりです。

その部分を繰り返します。

 

『ウクライナがドンバス地域でロシア系民族に対する大量虐殺を行っているという(虚偽の)主張に自ら対応して、プーチンは占領地に軍隊を送り込み、その軍隊を守るために占領地を正式に併合し、ついでにウクライナ領土内に小さな緩衝地帯を追加で奪う可能性もある。』

  昨年2月24日のロシア侵攻開始よりはるかに前からブレマー氏はこのように予想していました。まさに「慧眼」というべきでしょう。

  さらに22年末のインタビューで彼は「プーチンが追い詰められることで、核兵器の使用が危ぶまれる」とはっきり述べています。この先の戦闘の展開予想や和平交渉の行方は、23年1月初旬に発表される「23年の10大リスク」を待ちましょう。

  

  ウクライナは、国土面積が日本の約1.6倍の60万3700平方キロメートルで、人口は約4500万人。国土のほとんどが山の日本と違いほぼフラットで、あらゆる用途に利用可能な豊かな土地を持っています。その広大な地域は、子供時代に学んだ地理では「国土地帯と呼ばれ肥沃な土地である」と習いました。

 

  平和なはずの独立国家を一方的に蹂躙し、これまでに一般人の死者は6,826人、兵士の死亡推定数は1万~1.3万人。海外への避難者数は1,600万人にのぼります。

  日本にいるわれわれができることは少なく、発電機や衣料品を送ったり、日本に避難している人々を助けるくらいしかありませんが、心の中では精いっぱいウクライナを支援したいと思います。

12月31日分、引用終わり

 

ではあらためまして、今年の最初の投稿です。

  昨日1月3日にユーラシアグループが23年の10大リスクを発表しました。発表内容はまだ英語版だけですので、私が勝手に発表資料の冒頭にある「サマリー」を翻訳しみなさんにお届けします。

 

サマリー

私たちはほぼコロナのパンデミックを乗り越えつつあります。ロシアがウクライナで勝つ方法はありません。EU欧州連合はこれまで以上に強力になっています。 NATO はその存在意義を再発見しました。 G7は強化されています。 再生可能エネルギーは非常に安くなりつつあります。 アメリカの軍事・経済などの総合力は依然として無敵です。 米国の中間選挙は明らかに正常に行われました。そして、民主主義に脅威を与える候補者の多くは敗れました。 一方、ドナルド・トランプは彼が大統領に就任して以来、いまが最も弱体であり、多くの共和党員が共和党の次の大統領候補指名をうけるために準備をしています。

引用終わり

 

  内容中、ロシアによるウクライナ侵攻と国際情勢に関する記述で大事な部分だけ繰り返しますと、

「ロシアがウクライナで勝つ方法はありません。EU欧州連合はこれまで以上に強力になっています。 NATO はその存在意義を再発見しました。 G7は強化されています。」

という部分です。これまで彼は繰り返し「Gゼロの世界」ということを前面に唱え、国際社会における1強であったアメリカの退潮が世界の不安定要因であると主張してきました。

  私は彼の今回の見通しは、それを大きく転換するものだととらえています。つまりロシアのおかげでGゼロからG7が復活し、ヨーロッパでEUが結束を固め、その両者が参加するNATOこそがヨーロッパ全体の平和に対する存在意義を高めた、ということです。

  このことは日本やアジア太平洋地域でも同様なことが言えるのだと思います。つまり専制主義国家の脅威に対しては、アメリカを中心に民主主義国家が連合を組むことで対抗可能だということです。

  

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