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トランプのアメリカに投資しても大丈夫か その6

2016年12月29日 | 米国債への投資

  前回の記事で私は、「アメリカ経済はトランプごときでは、微動だにしない」ということを、数字でお示ししました。

  株式相場のトランプラリーをみて内外の一部の識者が、「トランプはそれほど悪くないかも」と言い始めています。経済運営面では有力者が政権中枢に入るので、悪い面ばかりではないと思います。しかし軍事・外交、そして人心面では、全く安心はできません。

  プーチンや習近平などの独裁者たちといずれは様々な局面で衝突し、そのたびに株式相場は大きく影響を受け、乱高下を繰り返すでしょう。そして忘れてはならないのは、選挙年である欧州や中東を巡って、来年も地政学上のリスクは増すばかりだということです。そうした危機状況は、ポピュリズム、独裁者の跋扈を許すことにつながります。


  独裁者の典型的やり口をちょっと見ておきましょう。先進諸国では共産党独裁の中国を除けば、独裁者と言われる政治家も、一応民主主義的選挙制度を経て選出されています。その後扇動的な言動を繰り返し、独裁ぶりに拍車をかけていくのが典型です。独裁的であるか否か、私は次のような指標で判断しています。

1.自分の権限拡大を目指して憲法を変更するか、解釈を勝手に変更する

2.任期の制限を延伸する

3.報道の自由を制限する

  現在政権の座にあって該当する主な者は、まず日本の安倍首相。憲法解釈を勝手に内閣が変更し、自民党の党首の任期を2期から3期に延長し、報道の自由度は劇的に悪化させています。

  そしてロシアのプーチン大統領。メドベージェフを間に入れて隠れ蓑に使い、2期のはずの大統領を4期務め、しかも1回の任期を延長し、人生の大半を独裁者として君臨しようとしています。KGB時代から反対者や言論の自由は暗殺をいとわず封殺する、絵にかいたような独裁者です。彼は独裁者の典型としてハッピー・リタイアメントができないのです。役目を終えたとみなされたとたん、リビアのカダフィやルーマニアのチャウシェスクのようにハチの巣にされることを恐れるからです。お気の毒に。

  先進国とはいえませんが、トルコのエルドアン大統領。大統領権限を拡大し言論を封殺するのはプーチンと互角。

  中国はもちろん根っからの独裁ですが、習近平は党の定めている国家主席定年を延伸しようとしているという報道が最近流れました。

  こうした独裁者リストに加え、彼らを上回るほどの「独善主義者」がアメリカ大統領に就くことは、世界にとって最大のリスクになります。何故なら経済力も軍事力も、断トツの世界ナンバーワンだからです。

  独裁者たちは、自国が自分の自由になったように、世界も自分の自由にしてやろうとします。自国優先主義が蔓延し、他国との政治的衝突を招く。中でも圧倒的独善主義者のトランプは、就任前から要注意人物ナンバーワンです。海外との摩擦もさることながら、国内でもアメリカはかき回されています。

  この一両日、CNNで話題になっている国内マターを列記しますと、

・当選直後、しおらしくオバマ大統領の話を聞いたが、現在両者は表立って非難合戦を始めた

・選挙中に最大の争点として「ヒラリーはウォールストリートの代弁者だ」と非難していたにも関わらず、自分の政権中枢のほとんどすべてをウォールストリートの代表選手であるゴールドマン出身者やヘッジファンド長者達で固めた

・そうしたウソツキぶりや矛盾を突かれるのがいやで、記者会見を徹底的に回避し、ツイッターで一方的に言いたいことのみ流している。これぞ報道の自由を大いに歪める所業

・エルトン・ジョン、セリーヌ・ディオンをはじめ、ほとんどのセレブタレントが大統領就任式でのパフォーマンスを拒否。ラインダンスで有名なNYのラジオ・シティー・ロケッツは依頼された会社側が受諾したが、一部メンバーが拒否し、親会社のマジソンスクウェアガーデンは困惑中

・就任式に合わせ、ワシントンではマイノリティの人権擁護団体など数十万人から百万人規模の反トランプデモが計画されており、すでに女性の権利擁護団体の20万人のデモが許可された。今後はきっと安全などの理由を付けて、制限を行うという見通し報道あり


  そして国際的に最も懸念されることは、トランプはこれまでの国家間の約束事を一方的に「反故にしてやる」と宣言していることです。すでに安保理でイスラエルの国際法違反決議をした国連を非難し、きっと彼は「国連はNYから出ていけ」とか、「もう国連に拠出金は払わん」と言うにちがいありません。

  こうした約束事を反故にすることが世界の一大潮流になることこそ、私が最も恐れるポピュリズムのリスクです。

  国内であれば訴訟という手段があり、法的正当性を問うことができるし、強制執行もできます。

  ちなみにトランプと彼のビジネスは過去そして現在、いくつ訴訟を抱えてきたか、ご存知ですか?

  USAトゥデイ調べで、その数なんと3,500件。セクハラ、侮辱、差別などに対する個人的訴訟沙汰はもちろん、商売そのものが訴訟で成り立っているほどの訴訟屋、それがトランプの実像です。

  しかし国際社会では、勝訴しても強制執行はできず、やるとなれば軍事行動です。フィリピンのように中国に勝訴のあと買収に応ずる、ならず者の大統領が出てくるリスクまであります。

  「世界の強国の首領が図らずもならず者だらけになった」。それが2017年の地政学上のリスクです。

  「ではみなさん、よいお年を!」が、冗談としか聞こえませんね(笑)。

  でも大丈夫。

リスクがどう現実のものとなっても、米国債さえ抱えていれば、枕を高くして寝ることができます(笑)。

 

  今年のブログはこれで終了とさせていただきますが、私は年末年始に旅行には出ず自宅で過ごします。家内の「キャット・シッター・キャットン」の稼ぎ時なので、主夫をします(笑)。

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コメント (5)
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