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トランプのアメリカに投資しても大丈夫か その3

2016年12月13日 | 米国債への投資

  前回の記事では、トランプの豹変しまくる行動パターンは、「公約」を至上とする政治家の行動パターンではなく、「ウソも方便」とするトランプ独特のビジネスマンの行動パターンだと申し上げました。それに対してみなさんからはあまり大きな異論・反論はありませんでした。

  今後も彼をそうした目で見ていれば、大統領専用機を作る「ボーイングはもうけすぎだ」とか、ジェット戦闘機を作る「ロッキードはもっとひどい」とかのツイッター発言に、いちいち反応しても意味がないということが理解できると思います。もっとも、言われたロッキードの株価が一日で5%も下がると、当事者はそれでは済みませんね。お気の毒です(笑)。


  さて、本題の「トランプのアメリカに投資しても大丈夫か」に戻ります。

前々回の記事でトランプの主な政策について私なりのコメントを書きました。

主なものは3つで、それぞれに対するコメントは、

1.   法人税・所得税の減税

法人税減税はもろに企業優先だし、所得減税の中身は高額所得者優遇という矛盾を抱えている。両者に共通するのはその財源不足の手当の見込みがないことだ。

2.   保護主義

関税の引き上げによる物価高は、これぞまさしく低所得者いじめ以外の何物でもない。輸入部品に頼る製造業も、いじめの対象になってしまう。

3. 財政出動によるインフラ整備

失業率が低く、労働者確保が困難な中で、しかも反移民では労働者確保の見込みがなく、財源確保の見込みもない。

  こうしたことを少し長い目で見ていくと3点に共通するのは、実現したら「国債増発とインフレにつながり、金利を上昇させる」ことになるという点です。それが本格的にアメリカ経済・財政の長期的不安要素であるか、コンパクトに検証していきます。

  3つの政策のうち、2の保護主義は可能性が低いので除き、1の減税と3のインフラ整備が仮に稼働したとしましょう。その場合でも、本格的金利上昇まで至らない可能性が強いと私は見ています。税制改正や財政出動によるインフラ整備出動には時間がかかります。アメリカの予算年度は来年の10月開始です。就任直後の追加予算措置はや税制改正は、可能性が低いのです。

  それでも1年後あたりからかなりの程度実現したとしましょう。すると景気の更なる上昇が金利上昇につながりますが、次にはそれが景気を冷やすことになります。

  例えばすでに住宅ローン金利は上昇を始めています。もともと個人の住宅投資が3-4年もピークレベルで推移していたため、金利上昇の影響はすぐに出てくる可能性があります。というより、直近の住宅ローン成約には影響が出始めています。自動車販売数も同様にかなり高いレベルが続いていて、ローン金利の上昇の影響は大きいのです。また一般には数字を見出しづらいのですが、アメリカの消費者はクレジットカードで買い物をし、かなりの人は金利支払いを伴うリボルビング払いをしているので、金利上昇は日用品の購買意欲にも影響を与えます。

  そうしたことが重なると当然景気がスローダウンを始めます。すると金利は低下する方向に変化します。市場原理の働くアメリカは日本と違い、金利上昇をもって大きな不安要素と考える必要はありません。FRBが量的拡大策をとっくに終了していますので、景気がよくなれば金利は上昇し、それが景気を自然に冷やします。

  こうした景気循環、物価変動、金利の上下動は、まさに市場経済の本来的なメカニズムそのものです。これまで先進諸国が果たしたくても果たせなかったインフレへの転換、金利の上昇は、実は大変に喜ぶべきことなのです。恐れる必要は全くありません。私が繰り返し何度も言っていた「アメリカ経済の快気祝い」の証拠の一つが金利上昇です。

  私はそのうねりが本格的グレートローテーションにつながり、長期金利がたとえば2000年代の10年間の平均値である4%程度まで行ってしまっても、恐れる必要は全くないと思っています。もっともそれまでにFRBは金利上げで対応をするでしょうし、4%を大きく超えたら、景気はしっかりと冷えてきます。なにしろすでに6年も好況局面が継続しているのですから、景気が低下するのはごくノーマルなのです。

  ここまでが先走った将来のコンパクトな見通しです。

  では逆にこのところの目先の動きを見てみます。ここにきての金利上昇がすべてトランプ経済政策への期待かと申しますと、それだけではないと私は考えています。

  その前に、「トランプノミクス」か、「トランポノミクス」かですが、アメリカの報道ではブルームバーグ、ウォールストリートジャーナルなどはTrumponomics=トランポノミクスを使っていますので、私もそれにフォローしトランポノミクスを使います。

  さて私はみなさんに、「たまには商品相場も見ておくこと」と申し上げていますが、それをちょっと見てみましょう。金利に大きな影響力を持つ物価のおおもとである商品相場は、トランプラリー前にしっかり上昇していました。10月までをトランプラリー前として、数字を見ます。

CRB ジェフリーズ指数; 2月のボトムから10月末までに20%上昇

代表的商品相場の指数ですが、すでにかなり上昇していました。

上記に含まれますが、アメリカの消費者の行動に大きな影響を持つガソリン価格の元、原油先物を取り上げますと、

WTI原油先物価格; 2月のボトムから10月末までに80%上昇

   こちらは相当な上昇です。

  その後のトランプラリーでCRB指数はさらに4ポイント、WTIはさらに20 ポイントの上昇となっています。

  こうした商品価格の上昇にもかかわらず、米国債の10年物金利は2月に1.7%台だったものが、10月末で1.8%とその間逆に低下したくらいで上昇していませんでした。つまりここへきての金利の急上昇は、「トランプ以前から溜まっていたマグマが、トランプによって解き放たれた」とも言えるのです。

つづく

コメント (13)
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